愛した人は剣奴だったから
「おまえを迎えに来た」

「えっ……?」

 意味が分からない。こんがらがったまま呆然としていた。可笑しそうに見つめながら、彼が歩み寄ってくる。

 口角を緩く上げて静かに微笑んでいる。彼は、一歩、踏み出している。そのまま、アデリアを抱き寄せていた。彼の腕に包まれると、心臓が激しく鳴り、眩暈に似た感覚に包まれてしまう。

「テラスが君を驚かそうとして、オレがここ来る事を黙っていたんだよ。数日前に、ここに手紙を送っている。だから、今日、ここに来ることはテラスも知っていた。ていうか、屋敷の正門でオレを出迎えたのはテラスだよ」

「ういうことなの? 意味が分からない。もしかして、レンシーの奥さんは死んじったの?」

「まさか! 彼女は元気だよ!」

 たちまち、ズバっとした遠慮のない、親しげな口調が飛び出していた。

「よく聞け! オレは、秘密の鉱山の場所を知っている唯一の生き残りの人間なんだよ」

 やっと打ち明けられる日が来たとばかりに笑みをたたえながら、遠い物語を思い出すかのように語り出している。

「だから、採掘権の半分譲渡することを条件にしてジクと同盟関係を続ける。ゴビはマサリ直属の部下が総督に就任して属州として支配する」

「ええ、そのことは知っているわ! あたしが知りたいのは、なぜ、あなたがここにいるのかよ!」

 レンシーが革張りの椅子に腰を落としてから、改めてゆっくりと説明していた。

「苦しい戦いだった。幽閉されている仲間たちも解放して祖国も人民もゴビから独立することが出来た。テラスのおかげだよ。ゴビの王族を倒した者にアデリアを託したいと真剣な目でオレの瞳の奥を覗き込みながら言ったんだ。何か暗示にかけられたかのような気分だったな」

「暗示?」

 どういう意味だろう? アデリアは放心したように見つめ返していた。正面にいる立って彼も、アデリアの隣に腰掛けて微笑している。

 彼の肩で触れると、ピクンッと鼓動が跳ねた。

「テラスは、昔、宮殿に遊びに来たオレの顔を覚えていたんだ」

 頭のいいテラスは一度見た光景や人間の詳細を決して忘れやしない。

「あなたは高官の息子なのでしょう? それは、あたしもテラスも最初から知っていたわよ」

「オレは、レンシー・アスベルではないんだよ」

 クシュッと目尻にシワを寄せる。アデリアの心を一瞬にして虜にしてしまう魅力的な表情を浮かべている。

 やはり、アデリアはポカンとしていた。

「レンシーは、オレの親友で部下だ」

 アデリアの瞳が潤み、うっすらと半開きになる。戸惑いと期待が入り混じった表情を浮かべるアデリアは涙をこぼす寸前の表情で叫ぶ。

「じゃぁ、あなたは、もしかして! も、もしかして」

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