愛した人は剣奴だったから
「王子様だよ。オレはイリアスだ。レンシーと入れ替わって生き延びた。マサリ殿には打ち明けていたが周囲には黙っていた」

 信じられないとばかりに膝を震わせていた。顔をクシャクシャにしてアデリアは涙をこぼしている。

 何から話せばいいのだろう。込み上げてくる感情が大きすぎる。足の震えが止まらない。

 初めて見た日、胸の中にある琴線をかき鳴らされていた。めくるめく感情の渦に落ちて翻弄されて、彼だけを想って生きてきた。

「レンシー、いいえ、イリアス! 会いたかった!」

「仲間達を助けて欲しいとレンシーに言われていた。使命を果すまでは誰も好きにならないと誓っていた。それなのに、おまえと会って運命が変わった」

 イリアスは、こんなふうにして素直な気持ちを誰かに伝えるのは久しぶりである。

「もう一度、最初からやり直さないか?」

 あの夜、奴隷として夜伽のお相手に選ばれて不機嫌だった。彼は、アデリアを寝台に降ろして、寄り添いながら告白している。

「正直に言うと、あの日は小馬鹿にされているようで嫌だったな。抱こうとしたら拒否されるし、本当に散々な夜だったな」

 彼が、そんなふうに思っていたなんて知らなかった。ずいぶんと遠回りをしてしまったが、ようやく二人は結ばれる。まるで御伽噺のように……。

「あの日、あなたがそんなふうに思っていたなんて知らなかったわ。ごめんなさい。許してね」

「いや、許さない」

 正面からアデリアを見据えて肩に手を添えて、柔らかく寝具の上に押し倒しすと、あの夜と同じように衣服を剥がしながら言う。

「でも、オレと一緒に来てくれるなら許してやる」

「もしかして求婚しているの?」

 アデリアは彼の温かい胸に顔を寄せると涙がこみあげてきた。偶然、街で見かけた奴隷に恋した。そして、その人は王子として帰ってきた。

 この奇跡に感謝せずにはいられない。今の二人を隔てる物など何もない。

「えっと、こういう場合、王子に対して、何度、断るのだったかしら……」

「もう、断らなくていいよ」

 アデリアは幸福で息が詰りそうだった。黄金の光の粒の中で蕩けるかりような圧倒的に幸福感に包まれていく。

「一緒に国を作ろう。誰も赤ん坊を捨てたりしないような、そんな国を作ろう。手伝ってくれるか?」

 そのまま花びらが舞うようにもつれ合いながら長く甘い口付けをかわしていく。

 これまで我慢していた色々な気持ちが混ざり合い、どちらも泣き笑いの表情になっている。
 愛しい人がここにいる。それだけでアデリアは満たされて心が煌めいて世界は大きく広がっていく。

「おかえりなさい、あたしの王子様……」

「もうすぐ、王になる」

「それは、おめでとう。嬉しいわ」

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