愛した人は剣奴だったから
「あらあら、奴隷は犬や猫じゃありませんのよ。頃合を見計らって高い値を付けて転売しなければなりませんわね。無駄なお遊びはおしまいにして下さいませ。前々から、お勧めしているアンス様とのお話を進めてみてはいかかでしょう?」
「それは半年前に断ったわよ」
「いえいえ、アンス様の御家庭はまだ諦めておられません。アデリア様の慈善活動にもアンス様の御家族は理解を示しておられます」
アンスの母親はアデリアの母と親しかった。だから、次男のアンスとの縁組を望んでいる。しかし、先月、アデリアはアンスと姉のシルミスの逢引の様子をこの目で見てしまった。アンスは十五歳。アデリアの姉のシルミスは二十二歳。年齢的には不釣合いだが、互いに慕い合っている。あの時、アンスの声が切なげに震えていた。
『母上はアデリアとの婚姻を望んでいます。ですが、この先、どうなろうとも、僕の心はあなたのものです』
姉の恋路を邪魔することだけは避けたい。
「駄目よ。シルミスお姉様とアンスは心から愛し合っているのよ!」
「シルミス様がアンス様を誘惑していることは知っておりますわ。ところで、レンシーは、どういうふうに威張ったのてすか?」
「あたしに働けって叱ったの」
「あら、何ですって……。あの男は気位が高くて生意気ですね。アデリア様もお疲れになったでしょう。さぁ、お部屋に戻ってお眠りくださいな」
「それはこっちの台詞だわ。いつも、申し訳ないと思っているのよ。あなたも早く休んでね。また、病気にならないか心配だわ」
「お気遣いありがとうございます」
いつも強面なテラスが優しい顔つきになっている。
テラスの執務室から出ると二階の寝室に戻ったのだが、そこに残っている夜伽の残骸が煩わしかった。薔薇の花びらを床に掃い落としてから寝台に横たわるが、なかなか寝付けそうになかった。
(……好きな人と二人切りになると心臓に悪いわ)
書物で閨のことは学んでいるめれども、文字で読んだだけではよく分からないのだ。彼に押し倒された瞬間、世界が一変したのだ。思い返すと、またしても胸が早打ちしてきた。寝台に彼の匂いが残っているような気がする。
ドキドキして眠れない。結局、この日は明け方まで、つらつらと彼の事を想っていたのである。
「それは半年前に断ったわよ」
「いえいえ、アンス様の御家庭はまだ諦めておられません。アデリア様の慈善活動にもアンス様の御家族は理解を示しておられます」
アンスの母親はアデリアの母と親しかった。だから、次男のアンスとの縁組を望んでいる。しかし、先月、アデリアはアンスと姉のシルミスの逢引の様子をこの目で見てしまった。アンスは十五歳。アデリアの姉のシルミスは二十二歳。年齢的には不釣合いだが、互いに慕い合っている。あの時、アンスの声が切なげに震えていた。
『母上はアデリアとの婚姻を望んでいます。ですが、この先、どうなろうとも、僕の心はあなたのものです』
姉の恋路を邪魔することだけは避けたい。
「駄目よ。シルミスお姉様とアンスは心から愛し合っているのよ!」
「シルミス様がアンス様を誘惑していることは知っておりますわ。ところで、レンシーは、どういうふうに威張ったのてすか?」
「あたしに働けって叱ったの」
「あら、何ですって……。あの男は気位が高くて生意気ですね。アデリア様もお疲れになったでしょう。さぁ、お部屋に戻ってお眠りくださいな」
「それはこっちの台詞だわ。いつも、申し訳ないと思っているのよ。あなたも早く休んでね。また、病気にならないか心配だわ」
「お気遣いありがとうございます」
いつも強面なテラスが優しい顔つきになっている。
テラスの執務室から出ると二階の寝室に戻ったのだが、そこに残っている夜伽の残骸が煩わしかった。薔薇の花びらを床に掃い落としてから寝台に横たわるが、なかなか寝付けそうになかった。
(……好きな人と二人切りになると心臓に悪いわ)
書物で閨のことは学んでいるめれども、文字で読んだだけではよく分からないのだ。彼に押し倒された瞬間、世界が一変したのだ。思い返すと、またしても胸が早打ちしてきた。寝台に彼の匂いが残っているような気がする。
ドキドキして眠れない。結局、この日は明け方まで、つらつらと彼の事を想っていたのである。