愛した人は剣奴だったから
(クソッ。勘弁してくれよな……)

 正直なところ、昨夜、清らかなアデリアに何もせずに済んでホッとしていた。

「レンシー」

 力強く薪を割っているところに背の高い女がやってきた。

 その顔はアデリアとは少しも似ていないが、姉だということは知っている。

 シルミスの口許には色っぽい黒子があり、顔つきは狐に似ている。

「あらあら、あなたかレンシーですか。聞きましたよ。昨夜、寝間で失敗してしまったようですね。見かけ倒しのようですね」

 シルミスは細面で長身の気取った雰囲気の女だった。癖の強い金髪のアデリアと違って髪色は栗色で髪質は真っ直ぐだ。薄い唇の端に意地悪い笑みを滲ませて偉そうに腕組みをしている。

「アデリアが妊娠すると困ります。お願いがあるの。結婚すると嘘をついてアデリアを巧みに誘拐して欲しいのよ」

 レンシーが胡乱そうに顔をしかめていると、シルミスが冷たく言い放った。

「あなたもここに長居はしたくないでしょう。自由にしてあげますよ。途中でアデリアを売り飛ばせばいいわ。悪い話じゃないでしょう?」

「断る」

「あらあら、仕方ないですね。あの子を誘惑する男の役目はセネカに任せようかしらね……」

「男娼のセネカの事か? あいつは男とも女とも寝る顔だけが取り柄の下衆な男だ」 

「そうですよ。あいつにアデリアを襲わせますわ。彼は悪い病気を持っているから不妊症になるでしょうね。あたしはどうしても財産を手に入れたいのよ。勝つ為にはアデリアを引きずり落とすしかないのよ」

 シルミスの明確な悪意を知ったレンシーは頭が痛くなってきた。母親は違えども血の繋がった姉妹だと聞いている。

「妹に対してそこまでするのかよ。恥ずかしくないのか。アデリアは金に執着はしていない。おまえが言えば白旗を揚げるんじゃないのか?」

「あの子は無欲かもしれないけれど、テラスはそうじゃないのよ。アンスの母もアデリアの高貴な血筋を敬愛しているの。あたしは何かと不利なの。でも、元気な男の子を産めばアデリアを出し抜けるの」

 シルミスは言いたい事を言うと立ち去ったのだが、そこに残されたレンシーは顔をしかめていた。

 ドロドロした姉妹関係に胸糞が悪くなるが、やり過ごすしかない。余計な事は思うまいと言い聞かせていたが、そういう訳にはいかなくなるのである。

 
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