愛した人は剣奴だったから
5 宴の夜
 レンシーが来てから一週間。レンシーは薪割りや馬の手入れなどを受け持っている。

 アデリアは自室のベランダに立ち、庭仕事に励むレンシーを盗み見ることで満足していた。

 時々、レンシーは面倒臭そうな顔で溜め息を漏らしている。それでも、仲間の奴隷達とはずに打ち解けている。

 この日、レンシーに近付いた者がいた。

『なぁ、あんた、ノラカンナ人なのかい?』

 アデリアが頼んでいた椿油を届けにきた少年だった。その少年が裏口を通る時、レンシーを見かけて近寄ったのだ。レンシーは警戒したように聞き返している。
 
『なんで、そう思うんだ?』

『そりゃ、もちろん、おいらの母ちゃんもノラカンナ人だからさ。オスベル語を話してても、ちょっと訛るんだ』。

 すると、レンシーは少年に持っていた桃の実をを手渡した。

『良かったら、これ、食ってみるか?』

『いいのかい?』

『ああ、この家の庭でとれたものだ。いっぱいあって食べ切れないから、好きなだけ食えばいいさ』

 すると少年は頬張りながら語り始めた。

『おいらの母ちゃん、戦争が始まる前にオスベルの行商人だった父ちゃんと結婚してオスベルに来たんだよ。母ちゃんはノラカンナって国では豪商の娘だったから、貧しい行商人との結婚に反対されて駆け落ちしたけど、あのまま、ノラカンナにいたら、ゴビの兵士に蹂躙されて、ひでぇ目にあってたんだろうな。母ちゃんの姉達は、みんなコビの兵隊に殺されたらしいよ』

『それは気の毒だったな。すまない』

 レンシーの顔は曇っていた。すると、少年はオロオロしたように眉根を下げて呟いた。

『なんで、あんたが謝るのさ……。あんたも戦争の被害者だ。王族や貴族はみんな死んだし、兵士たった者や、ゴビに逆らう者は奴隷として売られている。あんたも、兵士だったんだよね? その腕の傷、すごいね』

 それには何も答えずに、ただ曖昧に頷いている。重たい顔つきから何かを感じとったのか少年が申し訳無さそうに告げた。

『ごめん。なんか悪いこと言っちゃったみたいだね。母ちゃんが言ってたよ。もうノラカンナには二度と帰れないけど、あの国の草原に咲く青い花をもう一度見たいって……。春を告げる青い花なんだって。この国にはない花みたいだよ』

『そうだな……。あれはノラカンナごく一部の草原でしか見られないものだな』

 その時のレンシーは、記憶の欠片に手を伸ばしているかのように見えた。

(やっぱり、故郷か懐かしいのね)

 アデリアは、彼の哀しみを感じ取っていたのだ。

 そういえば、レンシーは将校だとテラスは言っていた。もしも、その身分がバレるとコビ人に目を付けられて大変な事になるだろう。

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