愛した人は剣奴だったから
後日、アデリアは侍女を伴い、その少年の父親が営む小間物屋へと向かってみた。すると、少年の母親らしき女性がいたのである。彼女の名はサビ。ノラカンナの花の名前だ。オスベルでは椿と呼んでいる。
『あら、まぁ、こんな狭い店に、アデリア様がいらっしゃるなんて……』
いつもは、少年が鞄に商品を詰めて各家庭を訪問するのだ。
針や糸、あるいは髪油や口紅といった、女性が使う細々としたものを取り扱っている。
『こないだ、うちの息子がご注文の品を届けたと思いますが、何か、粗相をやらかしたのでしょうか? それとも商品に問題でもありましたでしょうか?』
『いえ、ちょっと聞きたいことがあるの。あなた、ノラカンナ人だそうね』
『はい。しかし、今はもうオスベル人として登録されております』
結婚して帰化したのだ。彼女は、いきなり現れたアデリアに警戒するような顔つきになっている。
『あのね、聞きたいことがあるの。あなた、レンシー・アスベルという貴族を知ってるのかしら?』
『レンシー……。確か、レンシーという方は、末の王子様の従者をしていたと記憶しておりますわ。戦地にて行方不明になったようですね』
そこまで言うと、ふっと怯えたように彼女は声を落とした。
『まさか、うちの息子が見たノラカンナ人がレンシー・アスベルという名前だったのですか。あ、あの、このことは誰にも言わないで下さいませ。ゴビに引き渡したりしないで下さい。お嬢様、お願いでございます』
『あ、あの、違うの。そうじゃないの』
まさか、こちらがお願いされるとは思ってもみなかった。
『あたしは、あなた達に口止めしに来たのよ。でも、その心配はなさそうね』
賞金目当てにゴビに引き渡すのではないかと危惧していたのだが、彼女はキリッとした目で呟いた。
『当たり前ですわ。我々は、コビ人に密告などするものですか。息子の話を聞いて、アデリア様の自宅にノラカンナ人がいると聞いた時、おそらく、元兵士なのだろうと思っておりました。彼等は、最後まで勇敢に国を守ろうとしたのですわ。負けてしまいましたが兵は英雄です。せめて姉の娘だけでも助けたいと思ったのですが、我が家は王家に兵站納入しておりましたのでゴビに目をつけられていました。姉の娘はゴビの奴隷商人によって売られたと聞いております』
『……大変だったのね』
オスベル人も、昔は、余所の国に攻め入って領土を拡大していたのである。
その時に、その地の者を奴隷として連れ出しているので、ゴビ人のことをとやかく言えるような立場ではない。
弱肉強食。いつの世も、この世界は弱い者にとっては過酷だ。
『あなたの姪が、もしも、オスベルにいるのなら、調べることは可能よ』
『ほ、本当でございますか?』
『あら、まぁ、こんな狭い店に、アデリア様がいらっしゃるなんて……』
いつもは、少年が鞄に商品を詰めて各家庭を訪問するのだ。
針や糸、あるいは髪油や口紅といった、女性が使う細々としたものを取り扱っている。
『こないだ、うちの息子がご注文の品を届けたと思いますが、何か、粗相をやらかしたのでしょうか? それとも商品に問題でもありましたでしょうか?』
『いえ、ちょっと聞きたいことがあるの。あなた、ノラカンナ人だそうね』
『はい。しかし、今はもうオスベル人として登録されております』
結婚して帰化したのだ。彼女は、いきなり現れたアデリアに警戒するような顔つきになっている。
『あのね、聞きたいことがあるの。あなた、レンシー・アスベルという貴族を知ってるのかしら?』
『レンシー……。確か、レンシーという方は、末の王子様の従者をしていたと記憶しておりますわ。戦地にて行方不明になったようですね』
そこまで言うと、ふっと怯えたように彼女は声を落とした。
『まさか、うちの息子が見たノラカンナ人がレンシー・アスベルという名前だったのですか。あ、あの、このことは誰にも言わないで下さいませ。ゴビに引き渡したりしないで下さい。お嬢様、お願いでございます』
『あ、あの、違うの。そうじゃないの』
まさか、こちらがお願いされるとは思ってもみなかった。
『あたしは、あなた達に口止めしに来たのよ。でも、その心配はなさそうね』
賞金目当てにゴビに引き渡すのではないかと危惧していたのだが、彼女はキリッとした目で呟いた。
『当たり前ですわ。我々は、コビ人に密告などするものですか。息子の話を聞いて、アデリア様の自宅にノラカンナ人がいると聞いた時、おそらく、元兵士なのだろうと思っておりました。彼等は、最後まで勇敢に国を守ろうとしたのですわ。負けてしまいましたが兵は英雄です。せめて姉の娘だけでも助けたいと思ったのですが、我が家は王家に兵站納入しておりましたのでゴビに目をつけられていました。姉の娘はゴビの奴隷商人によって売られたと聞いております』
『……大変だったのね』
オスベル人も、昔は、余所の国に攻め入って領土を拡大していたのである。
その時に、その地の者を奴隷として連れ出しているので、ゴビ人のことをとやかく言えるような立場ではない。
弱肉強食。いつの世も、この世界は弱い者にとっては過酷だ。
『あなたの姪が、もしも、オスベルにいるのなら、調べることは可能よ』
『ほ、本当でございますか?』