愛した人は剣奴だったから
 その夜のアデリアは色々と想うところがあった。

 繁殖期のせいなのか蛙の声がやけに騒がしい。今夜は熱帯夜になっており、じっとしていても汗が背中を湿らせる。慣れないお酒に酔ったせいで頭が重く沈む。胸がムカムカしていた。

 階下の者達の嬌声のような声が漏れ聞こえてくるのも耳障りだった。

「ああっーーー、頭も喉も痛いわ」

 さすがに深夜になると屋敷は静かになっていた。客達も輿に乗って帰宅している。しかし、なぜか女の声が聞こえてきた。

 アデリアは中庭へと視線を落として目を凝らしていく。

 庭全体が篝火によって照らされている。カモミールやフェンネルがサワサワと爽やかな風に吹かれて揺れている。

 不意に館の回廊から人影が現れた。ユカラだ。木々の間に設置されたランプの点検しているレンシーにそっと近付いている。宴の時は赤いドレスだったのに、今はサフラン色のドレスを身につけている。そんなユカラが、庭の繁みの間にある長椅子に座ったままレンシーを手招きをしている。

 彼等の会話が聞えない。もどかしさがアデリアの中で空回りしている。

 彼等は獅子の形の噴水の前に大理石の長椅子に並んで腰掛けていった。

(ユカラはレンシーを許したのかしら……)

 次の瞬間、アデリアは叫びそうになった。

 信じ難い光景だった。ユカラがレンシーの頬に手を添えて喰らいつくようにキスをしていたらだ。妖しげな雰囲気が立ち込めている。

(どうして。なぜ、こんなことを!) 

 いや、ユカラが美しい奴隷に手を出すのは不思議なことではない。よくあることだ。彼女には夫がいるけれど、ユカラは夫の留守の間、お気に入りの奴隷といちゃついている。

(だけど、レンシーは、あなたのものじゃないのよ)

 二人の舌と舌が絡みつくようなキスが始まった。。レンシーは、ユカラを受け入れてキスと愛撫を繰り返している。 

 そして、立ったまま抱き合い始めた。大木にもたれるユカラの上衣がハラリと乱れている。まるで乗馬のようだった。レンシーにしがみついたまま腰を揺らしていた。

 ハァハァ。二人の呼吸は乱れていた。艶かしいユカラの声が闇夜に響いた。甘く爛れた声だった。辛くなってアデリアは耳を塞いだ。

 誇り高い男だと思っていたのに……。

 レンシーは他の男とは違うと思っていたのに、ユカラの欲望に応えるように首筋や胸に唇を這わせ手ドレスを剥がしている。ポロンッと弾むような豊満な胸が露になった。

 その刹那、意図的に挑発しているのかユカラがアデリアを見上げた。アデリアと目が合うと勝ち誇ったように笑った。情事を見せ付けようとしているらしい。

(あたしを傷つけようとして、この場所を選んだのね)

 ユカラはレンシーを長椅子に押し倒しすと彼の腹の上に跨った。半裸のユカラは荒馬を乗りこなすようにレンシーとの情事を満喫しようとしている。

(駄目よ……。彼は、誰にも渡さない……)

 その時、アデリアの中で何かが破裂しそうになっていた。

< 24 / 104 >

この作品をシェア

pagetop