愛した人は剣奴だったから
 着替えを手伝ってくれた侍女の話によると、昨夜のユカラはセネカと共に中庭で酔い潰れた後、一階の本館の客間に泊まったらしい。

 しかし、ユカラが屋敷にいたのなら、すべて夢だと言い切れるのだろうか。

(もしかしたら、昨夜、ユカラとレンシーは本当に……)
 
 いてもたってもいられなくなり確かめたかった。髪を束ねてもらうと急いで裏庭へと向かった。

 飼葉の入った木桶を持って歩くレンシーがいた。厩舎の馬の世話をするつもりのようだ。

 アデリアは息を切らしながら追いついていた。

「レンシー! ユカラと何か話した? あの後、会ったの?」

 急にそんな事を問われた彼は怪訝そうに眉を寄せている。昨夜、宴の席でユカラに打たれた傷が頬にハッキリと残っている。

「ユカラ? オレを殴った淫乱女のことか? あいつ、胸はデカかったな。あんな奴と話す事なんかない」

「もしも、ユカラに誘われたらどうする?」

「はぁー、何だよ? いきなり……」

 レンシーはプッと吹き出す。そして、アデリアの頬を指先で弾いて鼻先にシワを寄せた。

「この顔を見ろよ。あんなヒステリックな女のことを好きになる訳がないだろう。朝からくだらないことを言うなよ」

「ミミズ腫れだわ。手当てをした方がいいわよ」

「こんなの平気だよ」

 些細な事は根に持たない性質のようた。軽やかに肩をすくめている。

「そんなことよりも、おまえの母親はジクの王の妹だそうだな。ノラカンナの難民を受け入れてくれて我々は感謝している。おまえは高貴な血筋なんだから堂々としていろよ。なぜ、いつもオドオドしているんだ?」 

「……あたしの母様はジクの王様とは腹違いの兄妹なの」

「それでも、おまえはジクとの太い繋がりがある。おまえに頼みがあるんだ。マサリ王子と話ができるように取り次いでくれないか」

「話の内容にもよるわね。だけど、あなたは、ノラカンナの貴族だった訳だし、あたしか頼めばマサリと会えると思うわ」

 それでも、一応、会う前に謁見の許可を促がす為に手紙をしためておくべきだろう。

「それで、具体的に、あなた、何を話すつもりなの?」

 レンシーが深刻な顔で何か言おうとしたのだが、厨房から料理長の女が叫んでいる。

「ちょっと、レンシー、来ておくれ。大鍋を運んでくれないかい」

「あっ、わりぃ、続きはまたな」

 それだけ言うと走り去っていった。束の間の会話だったがアデリアは満足していた。

 フアリフアリ。雲の上を散歩している気持になっていたのだが木陰からアデリア達の様子を見つめて歯噛みする者がいた。目覚めたばかりのユカラである、

 二日酔いを持て余して顔色が悪いユカラが忌々しげに舌打ちをしている。

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