愛した人は剣奴だったから
 若い頃の父はあちこちで女と遊びまわっていたというのに、ある日を堺に、ピタリと女遊びを止めている。父は、アデリアの母だけを愛した。奴隷達もアデリアの母の美貌や教養や思慮深さを手放しに讃えていた。

(ジクの皇女様……。それが何だっていうのよ。あたしの母と何が違うのよ!)

 父は身分の高い異国の姫を妻に娶ったことを誇りに思っていたようである。それだけではない。シルミスよりもアデリアを可愛がっていた。

(もちろん、テラスはアデリアのことしか考えないわ)

 皆から慈しまれるアデリアが羨ましくて仕方がなかった。シルミスも実母と一緒に暮らしたかった。実母は、失意の中、僻地の庵で侘しく病死した。

 テラスは保護者気取りで何かと邪魔立てをしようとする。テラスは屋敷の運営に必要不可欠な人材。父の財産もテラスも手に入れたい。家督争いに負けるつもりはなかった。

 どうしても、アンスの子供を生みたい。

(あたしは何も悪くないわ……。あなたの恋を応援してあげているのよ。例え、それが、危険な旅になろうとも、やるだけの価値はあるでしょう?)

 アデリアには次期王となることが約束されている優秀な従兄がいる。

「あなたには家を継がせないわ」

 シルミスの企みは着々と進んでいる。

 ふと、横を見ると繁みの向こうに男娼のセネカが佇んでいた。シルミスと目が合うと、ねばついた笑みをこぼして会釈していたのだった。




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