愛した人は剣奴だったから
 誰もがセネカの演じる世界に夢中になってきたというのに、いつもアデリアだけはセネカを無視してきた。セネカは物心がついた頃から容姿を褒め称えられきた。もっともっと愛されたいと切望しながら生きてきた。

 そんなセネカは、全員に感心を持たれていないと自尊心が保てないのだ。

「アデリア様、僕は、いつもあなたの愛らしい唇を見つめておりました。その、あどけない赤い唇を僕のものにしてもよろしいですか?」

 言いながら、ジリジリとアデリアにじり寄ってくる。急に抱き締められてビクッとなった。

 アデリアは逃れようと頬を引っ掻いていく。すると、セネカは大切な顔を傷つけられて表情を歪ませる。しかし、フッと奇妙な笑みを湛えると、いたぶるような惨酷な微笑を漏らした。

「頑固な方ですね。あなたみたいな人は初めてです。そんなふうに拒否されると逆に燃えますよ」

 セネカは乱暴だった。シルミスからはどんなことをしても良いと言われている。

『あたし、あの子のことが嫌いなの。あの子を壊してもいいわよ』

 それは、そうしなさいということだとセネカは理解している。

 アデリアの腰にそって手を滑らせてきた。

 恐怖と嫌悪を感じたアデリアが懇願するかのように訴えていく。

「セネカ! お願い! やめて。あたし、何でもするわ。本当よ。あたしを放してよ」

 だが、セネカは下着姿のアデリアの細い身体を壁に押さえつけて怒鳴っている。

「僕に逆らうな!」

 背後から腕をねじあげているうちに、自分でも予想外の衝動が湧き上がってきたらしい。歪んだ微笑と共に囁いた。

「存分に、奴隷の気分を味あわせてあげますよ」

 その目や口許に邪な空気を漂わせている。恐怖にゾクリと顔を引き攣らせながらアデリアが叫ぶ。

「やめてーーーーーーーーーーー!」

 しかし、セネカの唇が迫ってきた。愚劣な行為に反発しながらセネカの肩に噛み付く。セネカは腕を押さえて呻く。アデリアは脱衣所へと駆け出そうとするが、生憎、濡れた床に思わず足を滑らせてしまい転んでしまう。絶体絶命だった。セネカは冷ややかな目で腹の上に覆いかぶさってくる。

「もう逃がしませんよ」

 恐怖に乗っ取られて心が張り裂けそうになる。アデリアの太股のに手が入ろうとしている。追い詰められている。しかし、その時、脱衣所の扉がパンという音と共に開いた。

「やめろ!」

 レンシーが浴室に押し入ってきた。セネカの腕を掴むと力任せにアデリアから引き剥がしている。セネカも反撃しようとしているが、レンシーが顔と胸部を続けて殴った。圧倒的だった。セネカが胸を押さえて白目を剥いている。

 もしかしたら、骨が折れたのかもしれない。鼻血を垂らしたまま力なく気を失って倒れている。

「レンシー! レンシー! 助けに来てくれたのね!」

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