愛した人は剣奴だったから
 襟足の辺りから漂うレンシーの匂いがを吸い込む。ドキドキが止まらなくなる。自分だけが彼を独占している喜びを噛み締めていた。

「重いわよね?」

「まっ、軽くは無いよな」

 皮肉を言いながらも歩き続けている。アデリアは頬を綻ばせて甘えるように顔をレンシーに寄せていく。こうして彼と密着している事が嬉しいので顔の筋肉が自然と緩くなる。

「ねぇ、レンシーはノラカンナの軍で何をしていたの?」

「おまえに言う必要はない!」

 ビシャリと切り捨てられてしまう。しかし、アデリアは挫ける事なく話題を探していく。レンシーの首飾りが襟足の方向に回っている事に気付いた。

「ねぇねぇ、この首飾りは何なの? 銀の板に言葉のようなものが刻まれているわ。紋章なのかしら?」

「触るな! これは大切な友の形見だ!」

 アデリアは突然の大声に驚いた。いつもの威張った口調とは少しニュアンスが違っている。彼は、冷静さを取り戻そうと少し間をあけた。それから、少し恥じるように苦笑した。

「怒鳴ってすまない。これは護符なんだ。誰にも触らせたくない。ヘルワもお揃いのものを持っている」

「あっ……、ヘルワ? 妹さんね」

 アデリアは、レンシーの肩に頬を乗せたまま羨ましそうに言った。

「あたしも、あなたの妹になりたいな。そしたら、いつまでも一緒にいられるもの」

「勘弁してくれよ。おまえとヘルワじゃぜんぜん違うぞ。ヘルワは働き者で賢い女の子だ。あの子には幸せになってもらいたい」

 レンシーはヘルワの事だけが気がかりだと言う。

 月明かりの街道を進むレンシーとアテリアは影絵の世界にいるかのようだった。この世に二人しかいないように感じる。

 やっぱり、この人のことが好きだ。もっともっと知りたい。

「あなたの国の婚礼ってどんな感じなの? 花嫁さんはどんな服を着るの? オスベルはサフラン色の衣装を着て結婚するのよ。式の前に神に羊の生贄を捧げるのよ。そして、笛の音と歌で祝うの。夫は妻を抱きかかえて家の敷居をまたいでから寝室に向かうの。素敵でしょ?」

 無邪気に尋ねると意外にも丁寧に教えてくれた。

「ドレスの色は自由だが花嫁衣裳は本人が縫っている。家紋を模った刺繍の色彩にも工夫を各自で趣向を凝らしている。王女も自分の婚礼の衣装を自分で作り上げるんだ」

 だからこそ、母親や祖母によって徹底的に裁縫を教え込まれるという。

「ザトラでは結婚は神聖なものなんだよ。オスベル人の女は不倫を謳歌しているが、ザトラでは妻は貞淑であらねばならない」

 想いを馳せるかのようにして懐かしそうに目を細めている。

「故郷では、初夜の後、血のついた寝具を村中に見せることになっているんだ」

「それって、貴族や王様もそういうことをするの?」

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