愛した人は剣奴だったから
ええ、分かったと頷くものの、周囲には瓜やオリーブ油が搭載されている。これらの荷物をミコノミスにある邸宅に納入するようである。アデアは自分の座席を確保する為に、大麦の袋を脇へと移動させていく。
レンシーは、大麦の袋を挟んだ左隣にいた。左右の肘を大麦の袋を置いたまま長い脚を投げ出すようにして座っている。
レンシーが御者台に座っている髭面の農夫に言った。
「なるべく速く頼んだぜ。夕刻までに着きたい」
「へぇ、よござんすよ。旦那、あっしに任してくだせぇ!」
ヒゲ面の農民のオヤジが頷くと鹿毛の馬の背にムチを入れて発進した。ガタガタッ。荷馬車の荷物が音を立てて揺れている。
オスベルの軍隊が造った石畳の街道が真っ直ぐに伸びている。街道の脇に自生しているサボテンの花がチラホラと咲いている。
空気が乾燥している。雲ひとつなくカラッと晴れているが土埃のせいで視界が煙っている。
快適な移動とは言い難い状況である。何か喋ると舌を噛みそうになるので、アデリアは目を閉じたまま黙って耐えていた。
オスベルの軍団がすれ違うことを想定した幅が確保されているが、それでも、時々、前から来る荷馬車とぶつかりそうになりヒヤリとなる。
「急いでくれとは言ったものの、飛ばすと尻に響くぞ。いてっ!」
車輪には振動を和らげる仕掛けがなかった。レンシーは幌馬車の後部席で呻き声を漏らしている。アデリアも手すりに掴まったまま虚ろな顔のまま、ひたすら揺られ続けていたのである。
長い距離だが、さすがに、野道で用を足すことはなかった。御者として馬車を操る髭面の農夫は知り合いの農家の家や小屋の前で停まってくれたからだ。
「お客さん、昼飯はどうだい? この家の奥さんの作るスープはうめぇぞ。もちろん、お代はいただくけどな」
温かな食事を食べられるのは有り難かった。値段も、びっくりするほどに安い。この家の家族のお昼御飯と同じものを提供しているようだ。屋外に置かれたテーブル席である。スープに固いパンを浸して食べていると、農家の家の中から赤子の鳴き声が聞えてきた。
若い奥さんがすぐさま家の中へと戻って赤子をあやしている。
「ほんとうに美味しいわ」
つい、口から素直な感想が漏れていた。
シルミスの誕生日の宴の料理ほど凝っていないのに、いくらでも食べられる。この開放感は何だろう。
好きな人と一緒に食べているから、こんなに美味しく感じるのだろうか。
放し飼いの鶏が歩き回っていた。背後は鄙びた畑である。井戸で水を汲みながらお喋りをする農婦達や、飼っている山羊に餌を与える子供達の笑い声。こういう田舎での暮らしを身近に感じた事は、今まであまりなかった。
レンシーが、どこか懐かしそうに言った。
「オレの故郷の村を思い出すよ」
レンシーは、大麦の袋を挟んだ左隣にいた。左右の肘を大麦の袋を置いたまま長い脚を投げ出すようにして座っている。
レンシーが御者台に座っている髭面の農夫に言った。
「なるべく速く頼んだぜ。夕刻までに着きたい」
「へぇ、よござんすよ。旦那、あっしに任してくだせぇ!」
ヒゲ面の農民のオヤジが頷くと鹿毛の馬の背にムチを入れて発進した。ガタガタッ。荷馬車の荷物が音を立てて揺れている。
オスベルの軍隊が造った石畳の街道が真っ直ぐに伸びている。街道の脇に自生しているサボテンの花がチラホラと咲いている。
空気が乾燥している。雲ひとつなくカラッと晴れているが土埃のせいで視界が煙っている。
快適な移動とは言い難い状況である。何か喋ると舌を噛みそうになるので、アデリアは目を閉じたまま黙って耐えていた。
オスベルの軍団がすれ違うことを想定した幅が確保されているが、それでも、時々、前から来る荷馬車とぶつかりそうになりヒヤリとなる。
「急いでくれとは言ったものの、飛ばすと尻に響くぞ。いてっ!」
車輪には振動を和らげる仕掛けがなかった。レンシーは幌馬車の後部席で呻き声を漏らしている。アデリアも手すりに掴まったまま虚ろな顔のまま、ひたすら揺られ続けていたのである。
長い距離だが、さすがに、野道で用を足すことはなかった。御者として馬車を操る髭面の農夫は知り合いの農家の家や小屋の前で停まってくれたからだ。
「お客さん、昼飯はどうだい? この家の奥さんの作るスープはうめぇぞ。もちろん、お代はいただくけどな」
温かな食事を食べられるのは有り難かった。値段も、びっくりするほどに安い。この家の家族のお昼御飯と同じものを提供しているようだ。屋外に置かれたテーブル席である。スープに固いパンを浸して食べていると、農家の家の中から赤子の鳴き声が聞えてきた。
若い奥さんがすぐさま家の中へと戻って赤子をあやしている。
「ほんとうに美味しいわ」
つい、口から素直な感想が漏れていた。
シルミスの誕生日の宴の料理ほど凝っていないのに、いくらでも食べられる。この開放感は何だろう。
好きな人と一緒に食べているから、こんなに美味しく感じるのだろうか。
放し飼いの鶏が歩き回っていた。背後は鄙びた畑である。井戸で水を汲みながらお喋りをする農婦達や、飼っている山羊に餌を与える子供達の笑い声。こういう田舎での暮らしを身近に感じた事は、今まであまりなかった。
レンシーが、どこか懐かしそうに言った。
「オレの故郷の村を思い出すよ」