愛した人は剣奴だったから
『おまえはルーダに惚れているが、彼女はおまえに興味がない。おまえはインポだ』

『香水工場のユリウスは、ルーダ・エピデの気を引こうと必死だが、フラれた。ざまぁみろ』

『ルーダの芳しい花園に入りたい者は二十三セクレルを払わなければならない』

 なぜか、ルーダという女の名がやたらと多かった。

 レンシーはパンと羊肉の煮込みとイチジクのソース添えと新鮮な川魚の揚げ物を注文している。アデリアはアヒル肉の串焼きとパンとアムール貝のスープを注文していた。 

 レンシーは最初に届いたパンにオリーブオイルを浸したものを頬張りながら壁の落書きを眺めている。

「うーむ、二十三セクレルはさすがに高いよな。王都の高級娼婦でもせいぜい十五セクレル程度だぞ。ルーダっていう女はよほど人気があるんだな」

 葡萄酒一杯の値段が一セクレル。ちなみに、なぜ、そういった落書きが居酒屋にあるのかと言うと居酒屋や食堂は娼婦との出会いの場となっているからなのだ。案の定、食事が終わりかけた頃に中年の女将が切り出してきた。

「お兄さん。この後どうだい? あたしゃ、マッサージがうまいよ。旅の疲れをほぐしてあげるよ。たったの二セクレルで優雅に淫らに御奉仕するよ」

 四角い顔の女将は男のように恰幅が良かった。

 スッと脇に擦り寄い、椅子に腰掛けているレンシーの太股に手を添えてニンマリと愛想を振り撒いている。

 彼は、以前、宴の席で同じことをされた時には怒っていたのに今回は違っていた。

 面白そうに女将を仰ぎ見なから尋ねている。

「女将、泥棒のいない宿を紹介してくれ。ちゃんとしているけれど安い宿に泊まりたいんだ。聞いたところによると、ゴビ人が、この街には多く住んでいるようだな」

「ああ、奴隷商人の定宿が町外れにあるよ。剣闘士の興行主の何人かはゴビ人と繋がっているから、よく来ているよ。ザトラ人の剣闘士を金持ち女の浮気相手として斡旋すると儲かるみたいだね」

「なるほどな、情報料として、あと二セクレを余分にル支払うから、この街について色々と教えてくれ」

「ああ、いいよ。賢明な判断だね。人買いの宿もあるから注意が必要さ。商談成立だね。いいよ、上の部屋でゆっくりと教えてあげるさ」

「ちょ、ちょっとレンシーったら!」

 止めようとしたがレンシーはすでに立ち上がっている。疲れているのか、その膝は頼りなげにふらついている。彼は、アデリアに荷物の入った袋をヒョイと投げてよこした。

「それを抱えて待っていろ。オレはちょっと二階で休む」

 自分もそこに行くと言いたいが、そんな事は出来やしない。

(あたしに引き止める権利はないんだわ……)

 ジメジメした気分を持て余す。

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