愛した人は剣奴だったから
 パサバサの短い髪。粗末な衣服はダボダボ。馬鹿な子供のそのもののように見える。銀の壷の面に映った自分の姿を見つめたまま落ち込んでいく。

「レンシーの馬鹿……」

 萎れた花のように表情を曇らせていた。

(あたしは、こんなにも好きなのに……)

 視線を漂わせたまま頬杖をついて溜息を落とすと、居酒屋の前で大きな悲鳴が沸きあがった。少女の甲高い声に何事かと思い、即座に通りに飛び出した。

 店の前にいる幼い女の子が二人組の男に押さえつけられている。女の子は七歳くらいでクシャクシャの赤毛とソバカスが印象的だった。
 
 泣きながら必死で逃げようともがく女の子。その光景を集合住宅の階上の主婦達が二階のベランダから見下ろしたまま話している。あけすけな女達の声が筒抜けだった、

「あれは、セドゥスの娘だよ」

「ええっ、セドゥス? どのセドゥスだい?」

「テレズ通りの洗濯屋にいる娘だよ。父親が博打で負けたせいで娼婦として売られるのさ。その前に逃げようとして失敗したようだね」

「パドの賭博場で負けたんだからしょうがない。誰も、パドから逃げられやしないのさ」

「でもさぁ、イカサマ賭博なんだろう? 確か、ルーダの亭主もあいつのせいで死んだんだよね」

「ルーダの名前は言わないでおくれよ。あの淫乱女のことは大嫌いさ。パドの情婦になりたくて亭主を殺させたんだよ! そうに決まってるさ」

 女の子は、パドという男の店で売春婦として働かされるのかもしれない。

(まだ子供だわ……。それに、あんなに嫌がっている)

 この国では、自由民も借金の形として奴隷の身に落とされるのだ。

(父親のせいで、そんな目に遭うなんて、どうかしているわ)

 あの子を救わなければならない。生真面目なアデリアは交渉すれば何とかなると信じ切っていた。

「あの、すみません。この娘を解放してくれませんか?」

「はぁーーーーーーーー? 誰だ、おめぇは?」

 おそらく、賭博場の用心棒か借金取りなのだろう。二人とも、その顔に生々しい傷があった。背か高いほうの男の前歯は二本とも欠けており、もう一人は筋肉質で片目が潰れている。

 普通の人間なら、こんな面相の男達に近寄ったりしない。

 しかし、世間知らずのアデリアは物怖じすることなく彼らに告げていく。

「このお嬢さんは子供なのですよ。そのような娘を無理に働かせてはいけません」

「はぁー。馬鹿なのか! こいつの親父は多額の借金を払えないで逃げたんだよ!」

「それならば僕が代わりに払います」

 巾着袋の底を探ると、旅費として持っていた指輪と耳飾りを差し出して無邪気に尋ねた。

「これだけあれば七百セクレルほどになると思うのですが、如何でしょうか?」

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