愛した人は剣奴だったから
 男達は卑しくニヤッと笑い互いの顔を見合わせている。アデリアが差し出したものは、金と石榴石をちりばめた腕輪。赤毛の男がアデリアが身につけている金の腕輪を指差して詰め寄ってきた。

「その指輪も渡すっていうならガキはあんたに返してやるぜ」

「本当ですか! ならばこれで契約成立ですね」

 男達から借金の証文を取り返すことに成功して満足していた。男達もニヤリとしながら去っている。しかし、遠巻きに見ていた女達が声高に叫んだ。

「何をやってんだい! バカな子だよ! あれだけあれば二万セクレルになるっていうのに! あいつら丸儲けじゃないか!」

「あの坊やは何者なんだい? 貴族や商人にしては身なりが粗末だね」

 その時、アデリアを更に落ち込ませるような展開となった。女の子が、不意に、サンダルの爪先を踏みつけた。たちまち、ズキンと鋭い痛みが脳天を貫いてしまい悶絶する。

「いたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」

 激痛に見舞われて立っていられない。えっ、どうして! 赤毛の女の子は脇に置いていたアデリアの袋を抱えると、あろう事か、そのまま逃げ出していくではないか。

(なんで……)

 放心していたがハッとなり追いかけていった。はぁはぁ。かなり走った。

 三叉路の辺りを見回すもののどこにもいない。路地の奥に走り去ってしまっている。ザワザワと不安と焦りだけが虚しく空回りしている。ちょっとしたパニックに陥りながらも、居酒屋へと引き返していく。

「レンシー! 助けて、どうしよう!」

 アデリアは痛む足を引きずりながら二階へと続く階段を駆け上がり、奥の部屋の戸を開けるとレンシーが寝台に顔を伏せて眠っている様子が見えた。

 固い椅子に座っていた女将が気だるそうに顎を上げながら囁いている。

「男前は眠っているよ。あたしゃ、馬鹿みたいに見守るだけで残念だよ。この男前は同郷の剣戦士のことをあれこれと聞いてきたよ」

 疲れが溜まっていたに違いない。横たわってすぐに寝入ってしまったというのだ。起こすのは気の毒だが、そんなことは言っていられない。

「レンシー! 起きてよ! 大変なの! お金がなくなっちゃったの!」

 筋肉質な背中を揺らしてみたが目を覚ます気配がなかった。仕方なく背中に馬乗りになると、彼の首の後ろを軽く噛み付いていく。もちろん、甘咬みだ。ムギュッ。

「いてっ!」

 ビクッと跳ね上がるようにして起き上がっている。こめかみを引き攣らせながら睨みつけてくる。

「おまえは猛獣か! アデリア、ふざけんな! 何だよ!」

 外で何が起こったのかを詳しく話すと、レンシーは天井を見上げて唸った。

「勘弁してくれよ。オレを困らせるために生まれてきたのかよ! 金がなくなったら、どうやって船に乗るんだよ!」

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