愛した人は剣奴だったから
 海で働いていた男達なので造船や操船の技術があった。ススリア人は河沿いで暮らしながら船による運送を受け持つようになると、ここは、オスベル有数の交易の重要地点となったのだ。

 河が近いということで製造業も発達しており、各地から人が集まるようになり、独り身の労働者の相手わする娼婦が街に溢れかえっている。

「この街ではパドとトルマキオの一族が縄張り争いしている。どちらも戦士を求めている。もうすぐ、非合法な賭け試合が行われるんだよ」

 会話の途中でレンシーが渋面になり首を振っていた。

「おい、待ってくれよ。剣闘士の試合には出ないぞ。目立つことはしたくない」

 皆が注目する場には出たくないのだろう。

『剣闘士のダウはみんなの憧れよ! 死ぬほど愛してる! 神様、大好きなギルトナが生き残りますように』

 こういう種類の書き込みを何度も街中で見かけている。二万人の観客を収容する闘技場では議員や貴族も観戦しているのだが、女将は、どこか皮肉な笑いを浮かべながら言う。

「おやおや、早合点するんじゃないよ。剣闘士になれって言っているんじゃないよ」

 女将は相手を引き入れるような目付きのまま声音を潜めながら囁いた。

「よく聞きな。秘密の豪邸で違法行為の拳闘試合をやるのさ。拳闘は年に一度のススリア系の住民の祭儀なのさ」

 オスベルの議員や神官は拳闘の儀式を奇異なものとして嫌っているけれども、パド達はそれが大好きなのだ。

「街を仕切っているパド達はススリア人の海賊の首領の直系の子孫だからね。どっちも荒っぽいんだよ」

 目と睾丸を潰すこと以外は何をやっても構わない。

「危険だから自主的に参加しようっていう男はいないね。通常、借金の形に連れ去られる。本当なら、洗濯屋のセディウスがそれをやるはずだったんだけどね」

 ハッとなった。だから、あの子の親は幼い娘を残して逃げてしまったのだろう。

(酷い父親だと思ったけれど、そういう事情があったのね。逃げるのも無理ないわね) 

 女将が紹介状のようなものをレンシーに渡した。

「パトの館に行くといいよ。そこはススリア人の聖域だ。あんたの嫌いなゴビ人が足を踏み入れる事は無い。これを渡して名乗ってごらん。食事も世話をしてくれるよ。この街の権力者のパドの屋敷なんだ。パドは船業者の元締めなのさ。大きな河船を持っている。ヴィラに泊まっている間はルーダを思う存分に抱けるよ」

「ルーダ? 壁に落書きされていた娼婦のことか?」

「ああ、そうさ。高級娼婦だよ。あんた、あたしみたいなおばさん相手だとやる気はないようだから、ちょうどいいんじゃないかい?」

 すると、レンシーか可笑しそうに微笑んだ。

「女将は、そうやって、今まで何人の男を斡旋したんだ?」

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