愛した人は剣奴だったから
「ねぇ、レンシー。昔のことを聞いてもいい?」

 以前、軍に関することについて聞こうとしたら拒否されてしまった。用心深く尋ねていく。

「その傷は戦争のせいなの?」

 レンシーは腰巻一枚という格好で自分の濡れた髪を拭いながら、少し目を凝らす。

「ん? どの傷のことだ?」

 沢山あり過ぎてどれについて聞いているのか分からないらしい。

「右肩の火傷の跡よ。クッキリと残っているわ。痛々しいわ」

 綺麗な筋肉がついた背中が美しかった。香油が香る肌が艶やかに光っている。衝動的に手を差し伸べたくなり、恐る恐る彼の肩に触れながら尋ねていた。

「古傷って痛むものなの?」

「そうだなぁ、雨が降る前は嫌な感じの鈍い痛みが走ることもあるよ。火傷は、十五歳の時にゴビの兵士に斬られた時に作ったものだ。酷い事になっているだろう? 気味が悪いのか?」

「ううん! そんなことないわ」

「そうか。それなら良かった。先に寝るぜ」

 髪はまだ完全に乾いていないが長椅子に横たわろうとしていた。アデリアは、慌ててレンシーの右手を引いてい寝台へと誘う。

「そんなところで眠る必要はない。一緒に眠りましょう。ゆっくり休んで。でないと、あたしも心配で眠れない」

 顔を寄せて眠った。彼の腕枕に包まれて幸せそうに目を閉じていた。

「レンシー、もっと、あなたのことが知りたいな」

 彼は仰向けのまま瞼を閉じながら声を聞いている。差し込む蒼い月の光がレンシーの横顔の輪郭を美しく縁取っている。レンシーはモザイク画が描かれた天井をぼんやりと見上げたまま独り言のように呟いた。

「明日、死んだなら、おまえとも逢えなくなるんだな。今までオレは死ぬのが怖いなんて考えたことがなかったけれど急に怖くなってきた」

「レンシーが勝つに決まってる」

 あなたが死ぬなんて考えられない。アデリアは喉元を繊細に揺らしながら呟いていく。

「約束してね! 勝つわよね!」

「ああ、死なないよ。オレはまだ死ぬ訳にはいかない。今は言えないが、いつか、おまえに話したいことがあるんだよ」

 闇の中、互いの気持ちがしっとりと絡み合っている。

「どうして今夜はダメなの? 言ってよ。知りたいわ」

「……疲れ果てているから無理だ。寝かせてくれよ」

 おどけたようにそう言うと背中を向けてしまう。こんなうら一緒に眠れることが嬉しかった。もっと話したかった。今、話を止めると二度と聞けなくなるような気がして怖かった。

「ねぇ、レンシー」

 その背中に呼びかけても返事はなかった。彼の背筋が静かに隆起している。微かなイビキも聞こえてきた。

「もう、眠ったのね」

 返事はなかった。熟睡している。

 彼は、ずっと気持ちを張り詰めさせている。人混みでは外套で顔の半分を覆い、チュニックに差し込んだ短剣の柄にずっと手をかけていた。
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