愛した人は剣奴だったから
 ルーダは孤児になったのが十三歳。親戚に売られて奴隷としてこのヴィラにやって来たらしい。

「亡くなった夫とはここで知り合った。わたしは十三歳だった。家畜の出産の時期になると、みんな交代で見守った。パドは夫のマシスとの結婚を認めてくれたわ」

 結婚した翌月に悲劇が起きた。王都から帰ってきたガイウスに言い寄られた。

 断ったのに、ルーダを無理やり押し倒して凌辱した。

「夫は抗議しようとガイウスのもとに向かい無残に殺されてしまった。奴隷を殺しても罪にならないのよ。わたしはパドの娼婦になったわ。そのおかげで、ガイウスもパドの許可無く手が出せなくなったのよ。あたしはガイウスを倒す男が街に来るのを待った。でも、試合に出るのは、借金を負った男や酒代欲しさに盗みを働くようなロクデナシばかり」

 まともな奴は馬鹿げた儀式に参加しない。

「ガイウスが試合に参加するのは今年限りだと言っていたの」

 こうしている間にも、レンシーの瞼がブワッと腫れ上がっている。瞼が垂れたせいで前が見えなくなったのか顎を高く上げている。おぼつかない足取りで円の中をふらついている。聴衆が溜め息混じりに漏らした。

「駄目だな。あいつ、もう、おしまいだよな」

「肋骨を折られて呻いているぜ。あっ、見ろよ、また倒れたぞ!」

 後方にいる見物人達は諦めていた。臥台に寝そべっている男達は満ち足りた様子で見ている。彼らの殆どがガイウスに賭けている。

「レンシーが死んだらパドは大損するの。選挙どころじゃなくなってしまう。損失を埋めるためにも、あなたを売り飛ばすしかないわ」

 決意したように後方に視線を移すと、垣根にもたれて控えていた門番のゴースを呼び寄せていた。

「アデリア、でも、その前に、あんたはこの男のものになるのよ」

「えっ……?」

 恐怖の余り全身を強張らせた。ゴースは、ごつごつとした指でアデリアの身体を後ろから抱きしめている。服の上から胸をわしづかみにしている。

 ゴースをそそのかすように、ルーダは顎をしゃくった。

「ゴース、その子を、あなたの好きにするといいわ」

 彼は、卑しく細めた目元を更に緩めて笑っている。アデリアは嫌悪の余りゾッとしてしまう。

(いやっ! いやいや! 助けて!)

 試合に夢中になっている人達はアデリアを見ようともしない。いや、見たところで助けないことぐらいアデリアにも分かっていた。

 昨夜、レンシーが、アデリアに向かって叫んだ言葉の意味が今ならばよく分かる。

『ここをどこだと思っているんだ!』

 オスベル国の領土内だが独自の文化が根付いている。この街は、天幕の中にいる有力者達が仕切っている。

(あたしは逃げられない)

 この男は、アデリアのことを凌辱するつもりなのだ。誰も、その蛮行を止める気がない。

「レンシー! レンシー!」

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