愛した人は剣奴だったから
 救いを求めようとする。アデリアは肩の上で暴れ続けていた。ゴースが苛立って立ち止まって、面倒くさそうにアデリアの口の中に布を押し込んでいく。

「うるせぇな! 静かにしろ!」

「うっ……、ううっ!」

 涙が一気に溢れてきた。泣きながらもレンシーの姿を見つめ続けていた。視界がぼやけている。距離が試合の会場から少しずつ遠くなっていく。

 庭の小高い場所まで運ばれた時、レンシーが膝をついて立ち上がる様子が目に入った。アデリアがさらわれている様子を見たレンシーの目の色が変わっている。

 思考も呼吸も止まったかのような表情のレンシーを凝視しながら、アデリアは目元を引き攣らせて涙を溢れさせた。

 レンシーは試合わ忘れて必死になってアデリアの姿を追いかけようとしている。

(レンシー! あたしのレンシー! 死なないで!)

 彼は、一瞬、円の縁から飛び出そうとしたけれども止まっている。枠を出ると失格になってしまうからだ。身体を大きくねじって振り向いていく。

「うおーーーーーーーっ!」

 頭を低くしてからガイアスの腹部めがけて突進していく。レンシーは腕を掴まれていた。牛のような腕でガイウスがレンシーの肩を掴み、身体を押し曲げて地面へと叩き落とすと同時に膝をめり込ませていく。レンシーの膝が沈む。レンシーは悲鳴に近い唸り声を上げている。折れた鎖骨を押さえている。口許から血を吐いている。

 レンシーが必死になって立ち上がろうとするか、ガアウスがニヤリと笑った。顔を殴ろうとしている。そんな中、ゴースが無慈悲な声で脅した。

「お嬢ちゃん、諦めな。暴れるんじゃねぇよ」

 アデリアのみぞおちを殴った。手加減無しだった。鈍い痛みに襲われていた。

 恐怖の余り混乱しながらアデリアは気を失っていく。もう前が見えない。意識が唐突にプツンと途絶えている。レンシーが膝を落として前に倒れ込む。

 それが、闘っているレンシーを見た最後だった。
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