愛した人は剣奴だったから
13 闘いの後
 ふっと、何かに誘われるように深夜に目を覚ましていた。

 視界が定まらないまま放心していた。何が起きたのか分からなかった。

 アデリアは裸のまま横たわっていたのである。寝台のあちこちに血の染みが点在している。

 見回すと、扇情的な天井画や黒檀の丸い机が目に入った。

 野生鳥、柘榴、チーズと蜂蜜と小麦粉で作る甘い菓子などが盛り付けられている。周囲はシンと静まっている。

 ああと呻いた。喉の奥が軋むような悲しみが込み上げてくる。嗚咽しながら呟いた。

「もう取り返しがつかない」

 昼間は騒がしかったヴィラがシンと静まっている。客人は退出しているらしい。敗者の首は神殿に奉納されると聞いている。

 心を切り刻まれたような哀しみのせいで目の前の景色が涙で崩れていく。全身で震えていた。

(レンシー! ああ、レンシー。せめて、遺体を弔わなくては……)

 寝台から起き上がり歩き出そうとしたが無理だった。ショックが大き過ぎたのだ。派手な音を立てて転んでしまう。

「ちょっと、どこに行くのよ?」

 物音に気付いたルーダが入って来た。呆れたようにアデリアに衣服を差し出した。

「服を着替えなさいよ。洗濯した衣服をあなたの枕元に置いていたでしょ?」

「服なんて、どうでもいい! そんなの、どうでもいい!」 

「いいから、落ち着きなさい」

 冷静な気持ちではいられない。アデリアは取り乱していた。

「いいえ、レンシーを探さなくちゃ! ねぇ、生け贄はどこに連れて行かれたの?」

「ああ、哀れな生け贄の男なら、祭壇の前にそのまま裸のまま置かれているわよ。もちろんね腸を抜かれたわよ」

 おかしそうにクスクスと笑っている。笑いは徐々に高まっていく。腹を抱えて、ヒステリックに笑っている。

「傑作よ! あいつ、試合中に首を折られて死んだのよ。みんな、唖然としていたわ」

「……死んだのね?」

 アデリアは力を失いしゃがみ込む。

「ひどい! ひどいわ! どうして、あなたは、そんなふうに笑えるのよ! バカバカ! あたし、一生、あなたのことを許さないわ!」

 アデリアは両手で顔を覆って慟哭していた。罪悪感が胸を締め付けている。ルーダは、アデリアの顎をつかんで顔を寄せて告げている。

「レンシーは立派に闘ったわ。ねぇ、アデリア、昨日の夜、どうして、あたし一緒に庭にいたと思う?」

「分からないわ。そんなこと」

 今となってはどうでもいいことだ。レンシーはもういない。それなのに、アデリアの哀しみを面白がるように語っている。

「レンシーは見張っていたのよ。ゴースが勝手に浴室に入らないかどうか警護していたの。わたしは、それを分かっていた上で彼を誘惑したわ」

「えっ……」

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