愛した人は剣奴だったから
14 療養
 三日間、レンシーは寝たきりの状態だった。頬も瞼も腫上がっている。殴られた痣も随所に残っているし、こめかみや唇の端には切り傷が刻まれている。顎が開かなくなり、瞬きも出来やしない。
 
 余りにも痛々しい姿を見ることが辛くてアデリアは泣きそうになるが懸命に介護して励ました。

 仰向けの状態で横たわるレンシーの口許に匙を運んだ。細かく刻んだ野菜入りのスープを注ぐ形で食事を与えた。オレンジの汁を絞ったものをスプーンで飲ませた。

「いてっ……」

 傷口に染みたようだった。オレンジの汁が口から零れてしまう。

「我慢してね」

 アデリアは、雛鳥にエサを与えるように少しずつ噛み砕いて固い食べ物を飲ませていく。そうこうしているうちに五日後には起き上がれるようになっていたのである。膨れていた頬がマシになっている。

「なんか、久しぶりに、ちゃんとした飯を食ったって感じだよなぁー」

「無理しちゃ駄目よ。さぁ、ほら、横になって休んでね。身体を拭いてあげる」

 ここに使用人を入らせる事はなかった。寝具もアデリアが交換した。海綿を使って傷付いた身体を何度も拭いた。

「ねぇ、レンシー、脇の下をあげてね。そう、両方とも」

 甲斐甲斐しく脇の下を拭いていると、レンシーは頭の後ろに両肘を回して面白そうに笑った。

「おーい、早くしてくれよぉ」

「くすぐったいの? ちょっとだけ我慢してね」

 意外なことにアデリアは介護の才能を秘めていた。自分の身体さえも洗ったことがないというのに、ちゃんと出来ている。レンシーは少し甘えるように上目になっている。

「あーあ、オレって寝たきり老人みたいだよな?」

「そんなことないわよ。老人は、こんないい身体じゃないもの」 

 濡れた布でレンシーの右胸のあたりを擦った。すると、彼は、おどけたように言う。

「あっ、やめろよ。感じちゃう。ンンッ」

 女の声を真似したものだった。アデリアは、自分が、からかわれたのかと思ってカッとなってしまう。

「いやらしい! そんなこと言わないでよ! 看護しているんだから」

 叱られたというのに、レンシーは、どこか幸せそうに問いかけた。

「いやらしいオレのことは嫌いなのか?」

「やだ。もう、何なのよ! 嫌いな訳がないじゃないの! 大好きよ」

「えっ、いやらしいオレがいいって?」

 おどけたように微笑んでいる。アデリアはプッと頬を膨らませて横を向く。アデリアの頬に熱がこもって赤くなっているというのに、わざと、からかって喜んでいる。
 
「レンシー、そんなことより、早く元気になることを考えないとね……」

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