愛した人は剣奴だったから
 彼の身体に触れると頬のほてりを感じてしまう。愛する人の身体の熱を感じると鼓動が速まる。こんな会話が出来るのは嬉しいけれど恥ずかしかった。水差しを机に置くために背を向ける。レンシーは、剥き出しになっているアデリアの背中を熱心に見つめている。彼は、惚れ惚れしたように言う。

「可愛いな」

「えっ、どうしたの? いきなり」

 アデリアが振り向いて椅子に座り、傷だらけの顔を覗き込むと彼は唇に弧を描いた。

「服を着ている時も可愛いけど、すべてを脱ぎ捨てたあとのアデリアは、もっと可愛いよ。風呂場でのおまえを思い出していたのさ」

「やだ。もう、突然何なのよ!」 

「アデリア……」

 何か言いたそうに呼んだ後、少し黙り込む。戸惑い気味になり口ごもっているので気になって続きを促がした。

「なぁに?」

「なんで、おまえはオレを選んだんだ?」 

「えっ?」

「ずっと、そのことを聞きたいと思っていた。奴隷のオレの何が良かったんだよ?」

「分からないわ。とにかく、あなたたけが輝いて見えたわ。見た瞬間、あたしは魂を奪われていたの」

「へーえ、オレみたいな奴を……。おまえは物好きだな」

 ゆっくりとアデリアの唇に手を伸ばしている。

 彼に頬や唇や耳の辺りを触られると、全身の感覚が研ぎ澄まされていくような気がする。甘美な気持ちに溺れていると、レンシーが囁いた。

「アデリア、その場所から前屈みでオレの身体を拭くのは大変だろう。腕が届かないようなら、オレの腰の上に跨れよ。胸に座るのは駄目だぞ。傷に響くからな」

「ふふっ、お馬さんごっこみたいね?」 

 よく、騎士階級の男の子がやっていた。サイコロで負けた子が馬になっていた。

「きっと、乗馬って気持ちいいんでしょうね」

「ああ、軍馬に乗って草原を早駆けすると最高に気持ちいいぜ。馬は賢くて綺麗だ。でも、今のオレは病み上がりの農耕馬だよな」

「そんなことない。素敵よ」

 アデリアにとっては白馬の王子様だ。見詰め合っているだけで甘い物が込み上げてくる。

「ねぇ、レンシー、どうしてキスをすると甘い気持ちになるのかしら? あなたに触れられると痺れちゃう」

「でも、おまえ、まだ女になってないよ。オレ、何もしていないぜ。あの時は我慢した」

「……」

 浴室での事を思い返して真っ赤になっていた。アデリアにとっては刺激が強い出来事だった。

「あたし、そういうことって、まだよく分からないから何も出来なくてごめんなさい」

「いいさ、おまえのことを見ているだけでいいよ」

 彼は、唇に弧を描いたまま視線を注いでいる。

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