愛した人は剣奴だったから
彼は、アデリアの痩せた背中をぼんやりと見ていた。物憂げで色っぽくて、脆さと健気さが漂っている。
レンシーは、赤く濡れた手巾を掴むと愛しげに握り締めたまま呟いた。
「オレの母と父の初夜も大変だったらしい」
「えっ?」
唐突な話に、アデリアは目をパチクリさせながら振り向いた。
「聞いたところによると、初夜の後、母上は物凄い勢いで父上を平手打ちしたらしいよ。母上はこう言ったらしい。約束が違う。優しくするって言ったじゃないって泣き出して大変だったそうなんだ。十日間も、母上は父を無視したそうだよ。父上が言っていた。最初は男も辛いんだよ」
愛する人に苦痛を与えたくないが、愛するにはそうするしかない。
「父上は、御機嫌を取るために母上の好きなものを次々と贈った。だけど、今のオレには何もないな……」
レンシーが困ったような顔をしている。アデリアは首に腕をまわして抱きついた。そして、愛しげにレンシーの額にキスを落とした。
「いいのよ。そんな事は気にしないでいいのよ。あなたと一つになれて嬉しいの。レンシー、早く元気になってね」
「飯はいいよ。オレの側にてくれ」
アデリアは頷いてから、スロリとしなやかな動作で隣に寝そべった。そして、彼の日焼けした腕にキスをした。愛しげに、その腕に顔を寄せたまま、うっとりと蕩けそうな顔で言う。