愛した人は剣奴だったから
「暁の姫君っていう御伽噺があるんだ」
それは、こんな内容だという。王子は冒険の途中で出会った姫君との暮らしを夢見るのだ。だが、王子は敵と闘わねばならなかった。冒険から戻ると姫君は別の男と結婚していた。王子と再会した姫君は自分を恥じるように身を投げる。その魂は白鳥になるという結末である。
「悲恋の話しだ。オレの国では誰もが知っている物語なんだ。冒険には危険と代償がつきまとうという教訓を含んでいる」
「んふふ、あたしが姫君ならあなたは王子様なのね」
「王子様か……」
突き放したように呟き。自嘲的に唇の端を吊り上げた。レンシーは盲人のような目付きで口許を歪めた。取り返しのつかない遠い昔を思い返すかのような顔つきで黙り込んでいる。
こんなふうに視線を漂わせているレンシーを見ていると、不意にどこかに消えてしまうような気がして怖くなる。
「あたし、あなたのことをもっと知りたいわ」
すると、レンシーが故郷での戦いの経緯について語ってくれたのだ。
「戦禍のノラカンナの状態は悲惨なものだったよ」
侵略者は人を殺して奪い脅す。特に印象に残ったエピソードがこれだった。
「娘達はゴビ人に連れ去られた。若い男は首を切り落とされて生首は木の枝などに吊るされた。オレ達は長い時間をかけて戦い続けた」
ザトラ人の商人達は知り合いのいる異国へと向かったという。
「多くの人間か奴隷として諸国に売られてしまった。残った者も地主となったゴビ人に搾取されている」
祖国を取り戻したい。言葉にしなくても、レンシーの瞳を見たなら強く願っていることが分かる。
「御飯を食べましょう。あたしが匙で口許まで運んであげる」
「優しいな。ああ、おまえの可愛い唇も胸も食べたいな」
「元気になれば、いくらでも食べられるわよ」
「そうだな。でも、その為にも体力をつけなきゃいけないな」
レンシーの食欲が増すと共に傷は癒えていったようである。
アデリアとレンシーが初めて結ばれた日の五日後のことだった。
予定ではヴィラでの生活はもう少し長く続くはずだったが、そういう訳にはいかなくなったようだ。トントンというノックの後、ルーダが現れた。
「少し早いけど、明日の夜明けに、この館から出なさい。あなた達の為に船を用意したわ」
ルーダの言葉を聞いたアデリアは驚いて顔を上げる。
「困った事にガイウスの兄のガイアが弟の仇を取ると息巻いているのよ。選挙は明日の朝から行われるわ。投票が締め切られ次第、ガイアはあなた達を殺そうとするわよ」
「ヤバイな」
ルーダが去った後、二人はお互いに見つめ合う。
「明日だなんて、唐突だわ……。レンシーの体調はまだ完全に回復して無いのに」
「おまえの看護が良かったから、かなり元気になったぜ」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」
それは、こんな内容だという。王子は冒険の途中で出会った姫君との暮らしを夢見るのだ。だが、王子は敵と闘わねばならなかった。冒険から戻ると姫君は別の男と結婚していた。王子と再会した姫君は自分を恥じるように身を投げる。その魂は白鳥になるという結末である。
「悲恋の話しだ。オレの国では誰もが知っている物語なんだ。冒険には危険と代償がつきまとうという教訓を含んでいる」
「んふふ、あたしが姫君ならあなたは王子様なのね」
「王子様か……」
突き放したように呟き。自嘲的に唇の端を吊り上げた。レンシーは盲人のような目付きで口許を歪めた。取り返しのつかない遠い昔を思い返すかのような顔つきで黙り込んでいる。
こんなふうに視線を漂わせているレンシーを見ていると、不意にどこかに消えてしまうような気がして怖くなる。
「あたし、あなたのことをもっと知りたいわ」
すると、レンシーが故郷での戦いの経緯について語ってくれたのだ。
「戦禍のノラカンナの状態は悲惨なものだったよ」
侵略者は人を殺して奪い脅す。特に印象に残ったエピソードがこれだった。
「娘達はゴビ人に連れ去られた。若い男は首を切り落とされて生首は木の枝などに吊るされた。オレ達は長い時間をかけて戦い続けた」
ザトラ人の商人達は知り合いのいる異国へと向かったという。
「多くの人間か奴隷として諸国に売られてしまった。残った者も地主となったゴビ人に搾取されている」
祖国を取り戻したい。言葉にしなくても、レンシーの瞳を見たなら強く願っていることが分かる。
「御飯を食べましょう。あたしが匙で口許まで運んであげる」
「優しいな。ああ、おまえの可愛い唇も胸も食べたいな」
「元気になれば、いくらでも食べられるわよ」
「そうだな。でも、その為にも体力をつけなきゃいけないな」
レンシーの食欲が増すと共に傷は癒えていったようである。
アデリアとレンシーが初めて結ばれた日の五日後のことだった。
予定ではヴィラでの生活はもう少し長く続くはずだったが、そういう訳にはいかなくなったようだ。トントンというノックの後、ルーダが現れた。
「少し早いけど、明日の夜明けに、この館から出なさい。あなた達の為に船を用意したわ」
ルーダの言葉を聞いたアデリアは驚いて顔を上げる。
「困った事にガイウスの兄のガイアが弟の仇を取ると息巻いているのよ。選挙は明日の朝から行われるわ。投票が締め切られ次第、ガイアはあなた達を殺そうとするわよ」
「ヤバイな」
ルーダが去った後、二人はお互いに見つめ合う。
「明日だなんて、唐突だわ……。レンシーの体調はまだ完全に回復して無いのに」
「おまえの看護が良かったから、かなり元気になったぜ」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」