愛した人は剣奴だったから
15 出発の朝
 出発の日の早朝、アデリアとレンシーは馬車の荷台に乗せられていた。

 人目を避けるようにして河の埠頭を目指すつもりだっだ。

 馬車は女将が暮らしている街の大通りの辺りを通過している。早朝という事もあり、この界隈はガランとしている。アデリアは神妙な顔をしていた。

「どうしたんだ? おまえ、もしかして怖いのか?」

 この馬車には幌がかかっている。外からは中にいる人物が見えないようになっている。

「あのね、無事にジクの港に着いた後はどうするの?」

「それは……」

 何か言いかけた時だった。いきなりガタっと大きく揺れながら急停止したのである。

「か、勘弁してくれーーーっ!」

 悲鳴を上げたのは、アデリア達を乗せた御者の男である。そのまま逃げ去っていく。

 あいつらに襲撃されたと気付いたアデリアは身体を強張らせた。数人が馬車を取り囲んでいるようである。外の様子を見ようとしたがレンシーが腕引いて押し止めた。

「アデリア、おまえは伏せろ。合図をしたなら飛び降りて走って逃げてくれ! いいな。オレとは別方向に行くんだぞ! あとで、女将の店で落ち合おう!」

「きゃっ!」

 突然、男三人が幌の内側になだれ込もうとするが、レンシーは剣で侵入者の胸をまっすぐに深く突き刺して落とす。レンシーは斬られた男を飛び越えると馬車を背にして走り出していく。

「待てーーーー」

 敵は四人。頬に傷のある男がレンシーの背中を追った。レンシーの背後から長剣を振り下ろそうとしている。

 危ないと叫ぶことさえ出来ないほどの恐怖が胸を締め付ける。しかし、レンシーは、後ろに目があるかのように素早くかわしていく。

 レンシーは、そのまま舞うように身体を捻ると、相手の腹を裂き、もう一人の利き腕を斬りつけてから、脇腹を刺したのだ。敵は、残り二人になっている

「アデリア 行け!」

 合図と共に馬車の外に飛び出していた。必死になって石畳の舗道を走った。レンシーを激しく追うのはガイアとその部下だ。ゴツゴツした鼻筋と濃い目元がよく似ている。ガイアは小柄だが俊敏で、どんとん路地の奥へとレンシーを追い込んでいる。

 そして、ガイアは追いながらニヤリと笑った。

「よし、その先は袋小路だ……」

    ※

 一方、アデリアも必死だった。パンを焼く匂が鼻先をくすぐっている。以前にも一度通った道。確か、この先には女将の居酒屋がある。そこに助けを求めようと走り続けていく。

 通りが急に狭くなったかと思うと短い階段に行き着いていた。慌てて降りる際に、ヌルッとした汚物に足を滑らせそうになって焦った。

(どうしよう。隠れる場所がないわ!)

 この通りは飲み屋街なので、この時刻になっても住人は眠っている。

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