愛した人は剣奴だったから
17 運命の分岐点
 外洋船に乗り込んでからと十日目のことだった。何度も漁師の船とすれ違っている。海鳥の数が多くなっている。これらは目的地が近くなったことを示していた。水夫達に向けて近隣の島から食料や酒を売りにやってくる。レンシーは、物売りの船から新鮮な果物を買い取った後、アデリアに言った。

「さっき、漁師がこの船の航海士に話していたぞ。国境線がキナ臭くなっているらしい」

「えっ……?」

 ジクの国境での紛争が頻発しているというのである。いつ戦争になっても不思議ではない。

「ジクの辺境の地にあるオアシス都市の利権を巡って、昔から争ってきたんだが、ゴビの部族に略奪され続けてきたジク市民たちが、ついに決起して反撃したらしい」

 たいていの国は、なるべく戦争を起こしたくない。卑劣なゴビの兵士達は、『起こさせる』ように仕向けていく。それが奴等のやり口だ。

「ゴビ王は、交易の拠点としてジクの港を支配したがっている。ゴビは陸での戦いに長けている。一方、海運国家のジクは優秀な海軍を持っている。だから、きっと、互角の戦いとなるだろうな」

 レンシーはどうするつもりなのだろうか。旅も終わりに近付いている。

 自分達がこれから向かう国は、決して平穏ではないのだ。

 翌日、東の空が明るくなった。アデリアが目を覚ますと、彼が、じっと顔を見つめている。彼は、船の中でずっと考えていた事を口にしていた。

「ジクの港に着いてヤバイと分かったなら、おまえは、すぐに母国に戻った方がいい。船乗り達の噂が本当なら、最悪の場合、ジクの王都も戦場になる可能性がある」

「な、なんで、そんなことを言うの! あたしは絶対に故郷には帰らないわ!」

 レンシーはアデリアの身を心配せずにはいられない。

「いいか、よく聞け。今にも戦争が始まろうとしている」

 ジクとコビは十年前から不戦の協定を結んでいた。それは砂の絆と呼ばれている。それくらい脆い関係なのだ。ゴビとの共存か、はたまた分裂かという運命の岐路に立たされている。ジクの王は、体調不良を理由に勇退しており、政治は王子であるマサリに任せている。

 王は顧問のような立場でマサリを見守っているのだ。

 船員達は噂に敏感だ。

『戦が始まったなら、この船も接収されるかもしれないな』

『マサリ王子はコビとやり合う覚悟をしたみたいだぜ』

 情報通の船乗り達の話によると、最近、ゴビの老王は領土拡大をしようと兵力を増強させているという。

 ゴビのように内地の乾燥地帯では穀物の生産は難しい。

 しかし、その隣国であるジクは砂漠地帯にありながらも、大河のおかげで肥沃な土地と感慨施設が整っており、穀物の栽培が盛んだ。小麦、豆、玉葱といった食材がジクの港に集められる。それが各国に集配されていく。ジクの商人達は大船団を使って国際貿易を行い莫大な利益を得ている。

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