愛した人は剣奴だったから
「ハッキリと申し上げます。あそこにいる方達を御覧くださいませ」

 強く手を握り、アデリアを窓辺へと導いている。大きな窓の外には広大な庭園が広がっている。内邸の東側には王族達が心を癒し寛ぐための果樹園があった。色鮮やかな鳥達が赤い果実をつついている様子が見て取れる。天国を彷彿させる綺麗な庭の真ん中にレンシーがいた。

 あそこで何をしているのだろう。背の高い赤毛の女性と向き合っている。

「あの女性はレンシー・アスベルの妻なのです。五年前に結婚したそうでございます」
「結婚?」

 頭の奥がカツンと砕け散るような感覚になり足が竦んだ。ここからでは、女性の横顔しか見えないが、彼女はレンシーよりも年上のようだ。髪の毛を束ねており、地味で質素な服を身につけている。

「今日は連れてきておりませんが、あの女性には五歳になる娘がおります。戦乱の中、必死になって逃げてこの地に辿り着いたのです。香油商人のお宅で使用人として暮らしておられます」

「嘘よ! そんなこと、信じない!」

 だが、信じない訳にはいかなかった。レンシーが、いつも身に付けていたネックレスを外して手渡している。彼女は、感極まったように震えながら泣いている。

 彼は女性を包み込み、耳元で何かを囁いていた。再会の感動を分かち合っているようだった。

 見下ろしながらテラスが囁いている。

「ヘルワ様も、奥様が生きていることを知らなかったのでございます。ヘルワ様は義理の姉君とお二人で暮らすと申されております。マサリ様の配慮によって、彼等を保護して差し上げることにしました」

 アデリアは震えていた。突然、アデリアを取り巻く世界が音を立てて壊れてしまった。耐えられない。絶望が渦巻いて心の中が引き裂かれそうになる。

「なぜ、レンシーは結婚していることを黙っていたの!」

「アデリア様が聞かなかったからてしょうね。それに、彼は、妻が生きていることなど知らなかったのでございますよ。戦渦の最中、民族はバラバラに引き裂かれたのですよ。アデリア様、そんなふうに泣いてはいけませんよ。相変わらず泣き虫ですね」

 スッと寄り添っていた。よろけるようにしてしゃがみこみ、身体を丸めて嗚咽するアデリアの華奢な背中をさすっている。

「マサリ様は、隣国ジクとの戦争を検討しておらます。今後、レンシーは傭兵として戦場に向かうことでしょう。いつ、お命が消えるかも分からないのですよ。愛してはいけない人なのです」

「でも、あたしは、やっばりレンシーが好きなのよ!」

 自分でも、どうして、そんなに好きなってしまったのか最初は分からなかった。けれども、一緒に旅をして、しみじみと彼の強さと優しさを感じた。

 彼は、母国の為に、いつでも命を投げ出す覚悟を持っている。

 とでも、強くて……。誰よりも誠実な人……。

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