愛した人は剣奴だったから
 だから、子供の頃、自らが伝令の役をしたいと願い出たという。狼に襲われて傷だらけになっても、犬や馬は使命を忘れることなく帰ってくる。レンシーは、帰ってきた血まみれの動物を抱えたまま、大声で泣いたこともあるというのである。

 犬を死なせたくない。その一心で自分が危険な伝令になるなんて、いかにもあの人らしい。

(あの人は、無感情そうに見えて実はすごく激しいのよ。強くて優しい人なのよ)

 どうしよう。彼のことを考えると心の奥底が揺れ動く。

 愛してる。愛してる。こんなにも心が叫んでいる。

 彼を忘れるどころか、今なおレンシーは心の中で生き続けている。アデリアははっきりと確信していた。

「あたしは、やっぱり、あの人のことが好きだわ……」

 彼に妻がいたことはショックだった。テラスが言うように、レンシー自身も妻は亡くなったと思っていたのだろう。

 それならば仕方がないではないか。

(お願いレンシー、無事に勝ってちょうだいね)

 何があっても彼のことは好きだ。だからこそ彼には生きていて欲しい。傷付いて欲しくない。彼は、アデリアの初恋の人。

「さよなら、あたしのレンシー」

 甲板で水平線を眺めていると涙が溢れてきた。彼に対する想いは消せやしない。どうすればいいのだろうか。深い想いを胸に秘めながらも、もう、これ以上、メソメソと泣き出さないように唇を噛み締めていく。

 涙が止まらない。だけど、前を向いて生きるしかない。

(神様、あたしが愛したあの人を守ってください……)

 レンシーの名前を呟き、彼のことを想う度に胸が痛くなる。胸が引き絞られるよう切ない日々重ねながらも、アデリアは自分に出来ることが何なのかを模索しようとしていた。

 あの人のように強くなりたい。

『レンシー、あなたは故郷を取り戻す為に戦地に向かったのよね。あたしは、あなたのように強い人になりたいの』

 もう会えない。それでも心には彼がいて、アデリアを照らす道標となっている。

 もう、誰かに頼ったりしない。自分で何とかする。この哀しみも寂しさも、自分の糧にしてみせる。アデリアはそう誓ったのだ。
 
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