愛した人は剣奴だったから
20 王子の帰還
時々、想うのだ。今頃、彼は、乾いた大地のとごの辺りにいるのだろう。
(きっと、祖国の為に彼は闘っているのね……)
砂塵が舞う砂漠で何を見つめているのかしら。
オスベルに帰国して以来、アデリアは孤児院や寺院での奉仕活動に没頭している。哀しい出来事を輝きに変えようと懸命に努力していた。
自分なりに精一杯やつてきたつもりだった。
誰かの役に立ちたい。哀しい生い立ちの子供達に寄り添いたい。その為に、真っ先に自分が動かなくてはならない。
そんな気持ちがアデリアを突き動かしていたのである。
そうしているうちにニ年の歳月が過ぎ、また、太陽が眩い夏が訪れようとしていた。
この日、侍女と共に神殿近くの公共広場まで来ていた。
二重顎の演説官が大きな身振りで報告している。
「善良なるオスベル国民に向けて告げる! これは待ちに待った吉報である!」
彼は、腹を突き出すようにして朗々と述べている。
「我が国と同盟関係にあるジク王国が、ゴビとの長く険しい闘いに勝利したことを、今日ここで宣言する!」
ゴビは敗れた。ついに、悪徳の都は陥落して独裁体制は崩壊したという。長く険しい戦争が、ようやく終結したのだ。今後、ゴビの領土はジクのマサリ王の支配下に置かれることになった。オスベルの奴隷の多くは、ゴビに支配された後に捕虜として売られた者達だ。
彼等は、ゴビの王族が処刑されたことを知って歓喜の声をあげている。
その帰り道、輿の中で侍女が言った。
「アデリア様、本日も神殿へと続く道は参拝者でいっぱいでしたね」
前方で、馬車が車輪の修理をしているのか、立ち往生していた。そのせいでアデリアの輿は足踏みしていた。侍女が困ったように眉間にシワを寄せているが急ぐことはない。
「いいわ。ゆっくりと進みましょうよ」
下水のニオイが鼻についた。そっと薄布から外を見つめているとハッとなった。
(あっ、ここは、初めてレンシーを見かけた道なんだわ)
アデリアは圧倒的とも言えるような懐かしさを感じていた。
目の端を滲ませながら街の臭いや騒がしさに視線を揺らしていたのである。あの時と何も変わっていない。切なさが込み上げて泣いてしまいそうになる。
今でも瞼に焼きついている。シャラランッ。彼の耳飾りの揺れる様子を今もしっかりと覚えている。
恋の痛みと歓び。胸が潰れそうだ。二度と会ってはいけない人を精一杯に想い続ける切なさが、胸の中を揺らして眩暈のような気持ちを呼び起こしている。
(あの頃、あたしは精一杯、あの人を愛したんだわ)
思い出を胸に秘めるしかなかった。もうすぐ僻地の修道院へと引っ越す事になっている。
(きっと、祖国の為に彼は闘っているのね……)
砂塵が舞う砂漠で何を見つめているのかしら。
オスベルに帰国して以来、アデリアは孤児院や寺院での奉仕活動に没頭している。哀しい出来事を輝きに変えようと懸命に努力していた。
自分なりに精一杯やつてきたつもりだった。
誰かの役に立ちたい。哀しい生い立ちの子供達に寄り添いたい。その為に、真っ先に自分が動かなくてはならない。
そんな気持ちがアデリアを突き動かしていたのである。
そうしているうちにニ年の歳月が過ぎ、また、太陽が眩い夏が訪れようとしていた。
この日、侍女と共に神殿近くの公共広場まで来ていた。
二重顎の演説官が大きな身振りで報告している。
「善良なるオスベル国民に向けて告げる! これは待ちに待った吉報である!」
彼は、腹を突き出すようにして朗々と述べている。
「我が国と同盟関係にあるジク王国が、ゴビとの長く険しい闘いに勝利したことを、今日ここで宣言する!」
ゴビは敗れた。ついに、悪徳の都は陥落して独裁体制は崩壊したという。長く険しい戦争が、ようやく終結したのだ。今後、ゴビの領土はジクのマサリ王の支配下に置かれることになった。オスベルの奴隷の多くは、ゴビに支配された後に捕虜として売られた者達だ。
彼等は、ゴビの王族が処刑されたことを知って歓喜の声をあげている。
その帰り道、輿の中で侍女が言った。
「アデリア様、本日も神殿へと続く道は参拝者でいっぱいでしたね」
前方で、馬車が車輪の修理をしているのか、立ち往生していた。そのせいでアデリアの輿は足踏みしていた。侍女が困ったように眉間にシワを寄せているが急ぐことはない。
「いいわ。ゆっくりと進みましょうよ」
下水のニオイが鼻についた。そっと薄布から外を見つめているとハッとなった。
(あっ、ここは、初めてレンシーを見かけた道なんだわ)
アデリアは圧倒的とも言えるような懐かしさを感じていた。
目の端を滲ませながら街の臭いや騒がしさに視線を揺らしていたのである。あの時と何も変わっていない。切なさが込み上げて泣いてしまいそうになる。
今でも瞼に焼きついている。シャラランッ。彼の耳飾りの揺れる様子を今もしっかりと覚えている。
恋の痛みと歓び。胸が潰れそうだ。二度と会ってはいけない人を精一杯に想い続ける切なさが、胸の中を揺らして眩暈のような気持ちを呼び起こしている。
(あの頃、あたしは精一杯、あの人を愛したんだわ)
思い出を胸に秘めるしかなかった。もうすぐ僻地の修道院へと引っ越す事になっている。