見知らぬ彼に囚われて
 突然、この部屋中が鏡に囲まれた。

 しかし不思議なことに、鏡に映る縛られ倒れ込む老年の男の姿は、自分の伴侶となった男の姿そっくりに見える。

 鏡の中の自分の姿はかなり乱れており、前日に見たときよりも大人び、なぜかやせ衰えていた。
 そして……

「っ、きゃああああ!!」

 鏡の中の自分の身体を奪っている男の姿は、どう見ても人間ではなかった。
 灰色の肌。長細い顔に、尖り耳まで裂けた口。ギラリと光る眼、曲がった二本の角……

「ははは、真実に絶望したか!? この恐怖に歪んだ表情はいい……!! さあ泣け!!」


 鏡に囲まれた部屋には彼女の絶叫と、老人の泣き声に変わりそうな救いを乞う叫び。縛られた縄が激しく擦れる音。
 そして寝具の激しく軋む音と鏡に映った異形の快感を含んだ笑い声が、一晩中響き渡った……
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