その甘さに、くらくら。
 赤眼。

 五月女の両眼は、ヴァンパイア特有の魅惑的な色に変化していた。それは、非常に飢えている時に発症するものだ。五月女は今、完全に捕食者だった。目をつけた獲物は、俺。俺は今、被食者だ。

 ヴァンパイアは、自分と同じヴァンパイアの血でも、抵抗なく飲むことができる。人間と同じで、噛まれたら発情してしまうが、その際、性的欲求だけに苛まれる人間とは違い、ヴァンパイアはそれ及び、吸血欲求にも苛まれてしまうのだった。

 経験がある。あれは、中学三年生の時だ。その日、俺は異常なほどに飢えていた。買った血を飲んだのに、目の色が変わるほどに飢えていたのだ。

 行動が活発化しやすい夜になり、俺は飢えに堪えきれずに家を飛び出した。家族を襲いたくない一心だった。家族は普通の人間だ。ヴァンパイアに理解はあったが、それでも、迷惑をかけたくはなかった。

 頭を冷やすように、人気のない夜道を彷徨い歩いていると、ふと、視線の先に、人影が映った。引き返すべきなのに、言うことを聞かない俺の足はその人影に近づき、徐々に距離を縮め、鼻腔を擽り始めた血の匂いに、理性の糸がぷつんと切れた。はっきりと、糸が切れる音を耳にした。ぷつん、と。

 目を血走らせ、俺は人影に襲いかかった。一瞬見えた顔面は、どこかで見たことのある顔だったが、どこの誰かなど考える余裕のなかった俺は、無我夢中でその人の首筋に噛みつき吸血した。

 その血が俺の口内を満たした瞬間、俺は何も考えられなくなった。初めて味わう甘すぎる血に恍惚とし、頭がくらくらし、今までにない以上の多幸感を覚えた。恐ろしすぎるほどに、その血液は極上だったのだ。
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