その甘さに、くらくら。
 目を見開き、口を半開きにしたまま、やおら顔を上げた。五月女の、獰猛な獣のような鋭い眼光が俺を射抜き、ぞくりと全身が粟立った。淡々とゲロという単語を連呼していたそれまでとは明らかに空気が違う。殺伐としている。

 そこで俺は、自分が間違った回答をしてしまったのだと気づいた。五月女の言動に追い詰められた俺が咄嗟に選んだ答えは不正解だったのだ。

 五月女のあまりの豹変ぶりに身の危険を感じるが、中途半端に開かれていた無防備な口にまたしても指を、それも二本、人差し指と中指を二本、強引に突っ込まれたことで意表を突かれ、脳から思考が飛び、あっという間に逃げる隙を奪われてしまった。

「俺は、あれからずっと、ゲロの味がする。こういう味がする。弓木のせいで」

「あ……」

 五月女のしようとしていることが、ぐるぐると混乱する頭でもはっきりと分かり、咄嗟に指を吐き出そうとするが、吐き出されたのは五月女の指ではなく本物のゲロだった。食べたばかりのものが混ざっている。刺激臭が涙を浮かばせる。プライドを傷つけられる。

 我慢していたものが、五月女に喉の奥を突かれたことで吐出した。咄嗟に五月女の腕を掴んで指を引き抜こうとするが、彼は手がゲロに塗れても俺の口内を犯し続け、甚振ってくる。吐き気が治まらない。

 何度も嘔吐き、息も絶え絶えになりながら、五月女に訴えかけるために視線を上げる。情けない顔を晒すことになってしまっても、苦しさから逃れたいがために五月女を見る。見て、目を合わせ、そして、俺は一瞬息が止まった。
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