『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
注文した料理が運ばれて来た。
旬の野菜と新鮮なお造りが盛り合わせになったお膳。
だしの効いた味噌汁の香りが食欲をそそる。
「八神くんって、綺麗に食べるよね」
「そうですか?」
「うん。外国で育った割には、意外だなぁと思って」
「別に外国で育ったわけじゃないですよ」
「え?」
「大学だけ、海外だっただけで、高校までは日本にいましたし」
「そうなんだ」
「はい」
生い立ちの話なんてしたことがなかった。
人事部ではないから、履歴書の詳細なんて知る術がないのだろうけど。
こんな風に思われていたことに少し驚いた。
さすが、営業で実績を残すだけのことはある。
話術が巧みで、緊張していたことさえ忘れてしまうほどに自然と会話が成り立っている。
小一時間ほどで食事を食べ終え、ほんの少し沈黙が訪れた。
「聞いてもいいですか?」
「……ん?」
「別れた理由を」
「………」
手元の湯飲み茶碗に視線を落としていた彼女の目が見開いた。
「言いたくないって言ったら?」
「聞かないと、気持ちに整理が付けられないと思います」
「……」
「今なら、絶対俺を断るでしょ」
「……」
「断るにしても、俺の気持ちに応える誠意は見せて下さい」
「っ……」
分かってる。
今の彼女に恋愛をする余裕がないことくらい。
だけど、昨日……。
ほんの少しだけど、俺の存在を受け入れてくれた。
先のことは分からないけれど、彼女に何か響くものがあったんじゃないかと思えてならない。