『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
全然足んない

森閑とした深夜のオフィス街。
翌日の出張に使うデータ入っているUSBを会社に忘れた璃子は、タクシーで会社に取りに戻った。

深夜一時過ぎ。
当然のように非常灯しか灯りが付いてなく、管理業者に連絡を入れてから社内に足を踏み入れる。

「あった」

机の引き出しに入れておいたUSBをバッグに入れ、自宅へと戻ろうとした、その時。
八神くんのデスクの上に置かれた卓上カレンダーに目が留まった。

二月十二日に青い丸印がされている。
何かの記念日なのだろうか?

仕事のスケジュールなら時間や場所が記されているのに、その赤丸の箇所だけは何も書かれていない。
誕生日?
いや、確か誕生日は三月だったはず。
去年の雛祭りイベントの時に、『男の子なのに雛祭りと被るなんて、やっぱり可愛い子だからだね~』などと職場の子達が揶揄っていたから、たぶん三月三日なんじゃないかと思う。

それなら、何がある日なんだろう?

そう言えば、仕事を中心に彼と会ってるだけで、恋人らしいことはまだ何もしてない。
年末年始の時だって、結局まともな会話なんてほぼできなかった。

これで、付き合ってると言えるのだろうか?

前の私なら、仕事帰りに彼の家に行って、頻繁にご飯を作ったりした。
もちろん、休みの度に出かけたり、記念日らしいイベントも形だけだったかもしれないけれど、私はその度にワクワクして準備して……。

あの頃のワクワク感はどこに行ったんだろう?
もうすぐバレンタインが来るけれど、正直すっかり忘れてた。
作ろう、買おうなどという発想すら思い浮かばないほど。

目の前の仕事に追われて、十四日の夜も会食が入ってる。

八神くんはこんな仕事漬けの女で、我慢できるのかな……?

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