若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 そのあとも、そのまたあとも、ジョンズワートはカレンに会いに行く。
 彼女は寝込みがちなため、基本的にジョンズワートのほうがアーネスト邸に足を運ぶのだ。

 とある日、アーネスト邸に着くと、カレンは調子を崩してベッドにいると伝えられた。
 寝ているなら邪魔をすべきではないと思ったが、彼女はまだ起きていて、ジョンズワートに会いたがっているとのこと。
 無理はさせたくないが、ジョンズワートだって、カレンの顔が見たい。
 少しだけ、会わせてもらうことにした。
 
「ごめんなさい、ワートさま」
「いいんだ。僕のことは気にせず、ゆっくりやすんで?」

 ベッドの横に用意された椅子に座り、カレンと言葉を交わす。
 横たわる彼女の顔は赤く、いくらか呼吸も乱れていた。
 できることなら、もっとカレンのそばにいたいが――彼女のことを想うなら、長居するべきではないだろう。
 自分がここにいたら、きっと、彼女は眠れない。
 だから、少し経ったら「じゃあ、今日はこれで」と、帰るつもりで立ち上がった。
 ……立ち上がろうとした。
 くん、となにかに引っ張られたことを感じ取り、ジョンズワートの動きがとまる。

「……カレン?」
「あっ……。ご、ごめんなさい」

 見れば、カレンの手がジョンズワートの服のすそに伸びていた。
 すぐに離されたものの、彼女の表情や行動は、「まだここにいて」と語っていた。
 好きな女の子にこんなことをされて、放っておける男がどこにいるだろうか。
 ジョンズワートは椅子に座り直し、彼女の小さな手をそっと握った。

「きみが眠るまで、ここにいるよ。だから、安心しておやすみ」
「わーと、さま……」

 手に触れる温もりに安心したのか、カレンは弱々しく、けれど安堵した様子で微笑んでから、眠りに落ちていった。
< 193 / 210 >

この作品をシェア

pagetop