新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
「それじゃ、諦めろ」
はい?
「そ、そうですか……。分かりました」
分かりましたって、何?
どういうこと?
『それじゃ、諦めろ』 って、高橋さん。どういう意味? 
「応えて下さって、ありがとうございました。いきなり、すみませんでした。お疲れ様です。お先に、失礼します」
「お疲れ様」
佐藤君は、高橋さんに向かって早口で捲し立てると、あっという間に走っていなくなってしまった。
そして何事もなかったように、高橋さんはまた先ほどの続きの綴じを始めた。
エッ……。
諦めろって?
佐藤君は、もし高橋さんと私が付き合ってるんだとしたら諦めるって。それで、高橋さんが佐藤君に 『それじゃ、諦めろ』 って言って……。
頭の中が混乱して、上手く理解出来ない。
「高橋さん……」
無意識に、高橋さんの名前を呼んでいた。
「んー?」
高橋さんが、ファイルを纏めながら顔を上げた。
「何だ?」
「あの、どうして佐藤君に諦めろって……」
私の問い掛けを無視するように高橋さんが椅子から立ち上がって、綴じ終わったファイルをしまおうとして後ろのキャビネットの扉を開けたが、その途端、中からファイルが雪崩を起こして床に落ちてきた。
「おっとぉ」
うわっ。
高橋さんが2冊は片手で食い止めたが、あとの3冊は床に散らばってしまい、ファイルの綴じが開いてあちらこちらに綴じてあった中身が散乱してしまった。
「あぁーあ。はぁ……」
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