新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
ファイルとその中身が散乱した床を見つめて大きなため息をつきながら、高橋さんは散乱したファイルとその中身を拾いだしたので、思わず慌てて駆け寄って一緒に拾った。
やっと最後のファイルを綴じ直してキャビネットにしまって扉を閉めると、高橋さんと思わず同時に大きなため息をついてしまい、目が合った。
「佐藤に言った通りだ」
エッ……。
何が何だか、よく分からない。
どういうこと?
いったい、どうなってるの?
それって……。
もしかして、諦めろって高橋さんが言ったのは……。
「何か、不満か?」
「い、いえ……その……もっと、はっきり言ってもらわないと分からなくて、私……」
恥ずかしくて、下を向いてしまった。
「バーカ! こんなこと、そうそう何度も言えるか」
それって、高橋さん……。
それって、もしかして?
「あの、それって……それ、それって……」
片付けをしながら悪戯っぽく笑った高橋さんは、立ったままマウスを動かしてパソコンの電源を消して、少し屈んで机の引き出しを開けて書類をしまうと、後ろに立っていた私の方へ振り向いた。
「何なんだよ? さっきから、それそれって。体内の電池でも切れちゃったのか?」
「なっ……」
小首を傾げながら高橋さんは机の方を見て、パソコンの電源が消えたことを確認すると、机の脇に置いてあったバッグを持った。
その動作を見ながら自分の言動を思い出していたら、何だか急に恥ずかしくなって、慌てて椅子の上に置いてあったバッグを掴んだ。
「お、お先に失礼します」
お辞儀をして、高橋さんの席とは反対側から出て慌ててこの場を離れようとした。
「送って行くぞ」
「い、いえ、大丈夫ですから」
そう言いながら急いで歩き出したが、高橋さんに先回りをされて通路に出たところで立ちはだかれてしまった。
「フッ……。矢島さんの大丈夫が、いちばん大丈夫じゃないんだよな」
「えっ……」
「ほら、帰るぞ」
高橋さんは事務所の鍵を持って、先に歩いて行ってしまった。
「あっ。ま、待って下さい」
事務所に、独り置いて行かれても困る。
怖いから、取り敢えず慌てて高橋さんの後を追って、一緒にエレベーターに乗って2階で降りた。
「此処で、待ってろ。鍵、返して来るから」
高橋さんがエレベーターを降りて、警備本部の方へ行きかけた。
「あの……本当に、大丈夫ですから」
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