新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
高橋さんが立ち上がり、机の上に置いてある灰皿を取って床に置くと、ポケットから煙草を出して火を付けた。
「土屋に会う時は、だいたい土屋のお袋さんも一緒に来ていた。 さっきも言ったが、必ず誰かが一緒に居た。 最初は、紺野さんだったりもしたが」
「土屋さんのお母さん? 紺野さん?」
そう言えば……。
階段のところで、高橋さんと土屋さんが会話をしているのを聞いてしまった時も、確か……。 『紺野さんも来ますから』 って、土屋さんが言ってた気がする。
「何故? 何で、誰かが何時も一緒に居たの? 2人っきりじゃなかったの?」
理解不能な高橋さんの行動を、一から整理しようと思って独り言のように呟いていた。
「俺が、土屋にそう言った。 最初に相談の乗るのはいいが、条件として相談の内容のこともあったから、必ず誰か一緒に来てもらわないと困ると。 まあ、誤解されたくないというのもあったんだけどな」
「誤解されたくない?」
何で?
誰に、誤解されたくないの?
周りに対する、体裁?
それとも……自己防衛?
「変な噂を立てられるのも、面倒だしな」
確かに。
他人の噂は、本当に怖い。
それを身をもって感じているので、高橋さんの言っていることに十分頷けた。
「確かに、そうですね。 会社の人達に変な誤解をされたら、大変ですもんね」
高橋さんが、土屋さんと2人っきりで会っていなかったと聞いたことや、紺野さんが一緒に行く予定になっていた話を確かに耳にしていたこともあって、かなり冷静になれた気がする。
「いや、それもあるが……。フッ……」
エッ……。
違うの?
「他にも、何かあるんですか?」
高橋さんは、吸っていた煙草の煙を天井に向かって吐き出した。
「何かあるんですか? じゃないだろう」
「えっ?」
「お前にだろ?」
「わ、私に? えっ?」
どういう意味?
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