新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
「先を読んで、自分をさらけ出さんでいい。幾ら許容範囲の広い君でも、このまま突っ走っていけば何時かは自分が潰れてしまう。それでは、会社も私も困るからね。今、君がやれることをやってくれ。この意味が、分かるな?」
「はい」
「LCCの件を君に任せたからには、その責任は私が負う。役員の心のカラーを変えるのは、私がやること。否、私がやれることだ。何としても、このLCC就航は成功させてくれ」
「ありがとうございます」
高橋さんが一礼している姿を見て、社長の器の大きさと偉大さに改めて驚いていた。そんな風に、この会議での高橋さんを見ていたなんて……。
私は、ただあんな言動をしてしまって高橋さんは今後、大丈夫だろうかと心配していただけだった。それに、あんな罵声を高橋さんに浴びせるような取締役達にも腹が立っていた。
「時間を取らせたね」
エッ……。
「は、はい。あっ、い、いえ。とんでもありません」
行きかけた社長が振り返り、高橋さんが戻ってくる途中、その陰で見えなくなっていた私を社長は背中を反らすようにしてこちらを見ながら言っていたと思ったら、急に高橋さんの後を追うようにこちらに向かって歩いてきた。
な、何?
「矢島さん」
「は、はい」
うわっ。
完全に、名前を覚えられてしまっている。
「承知しているとは思うが、高橋君はこういう状況下でいつも闘っているんだよ」
「は、はい」
「だから、もっと君は……」
きっと、もっと君は高橋さんの仕事の負担を減らしてあげなさいと言われる。
「彼に、息抜きをさせてあげて欲しい」
「も、申しわけありません!」
はい?
あれ? 
い、息抜き?
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