新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
「高橋さん……も、もういいんですか? 私のことでしたら、全然気にしないで下さい」
思った以上に、高橋さんが早く現れてしまったので驚いて焦ってしまった。
「行こうか」
あれ?
高橋さんの様子が、何となくさっきと違う。
「あの、高橋さん。どうかしたんですか?」
あっ! しまった。
変なことを聞いてしまったので、高橋さんが私の目をジッと見ている。
最低だ。こんなこと、聞いたりしたら駄目じゃない。
「いや、何でもない。行こう」
「は、はい」
良かった。
気にしないでくれたみたい。
お店を出て、人混みの中を歩きながら駐車場に戻る途中、高橋さんと会話はなかった。
やっぱり、先ほどの女性とのことがあるのかな。私が居たから、落ち着いて話が出来なかったんじゃないだろうか。
黙って助手席のドアを開けてくれた、高橋さんの顔を見た。
「あの、高橋さん」
「ん?」
「申しわけありません。私、寄りたいところがあったのを思い出したので、電車で帰ります」
不思議に、すらすらと高橋さんに言うことが出来た。何で、こんなことを言い出してしまったのかは、良く分からなかったけれど。
「寄りたいところ? もしあれだったら、送っていくぞ?」
「いえ、大丈夫です」
「そうか。今日は、悪かったな」
「えっ? とんでもないです。こちらこそ、ご馳走様でした」
何で?
高橋さん。
何で、謝るの?
「それじゃ」
「はい。ありがとうございました」
< 83 / 311 >

この作品をシェア

pagetop