婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜


「侯爵令嬢」

 隣にいたスカイヨン伯爵が小声でわたしを呼びかけた。はっと我に返る。いけない。陛下たちに挨拶をしないと。

「国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、ご機嫌よう。アングラレス王国ジャニーヌ侯爵家の娘、オディールと申します。本日はお目にかかれて至極光栄に存じます――」

 わたしと伯爵の挨拶が終わって陛下たちと会話をしていると、

「ぷっ……ぷぷっ…………」

 隣にいたレイが肩を震わせながら小さく吹き出していた。ぎょっとして、彼のほうに目を向ける。

 な、なに笑ってるのよ!
 今現在、お隣で陛下がお話をされているのに、いくら王太子でも無礼すぎるわ!
 それに高貴な身分の者は、人前で表情を崩してはいけないのよ!? それを王太子とあろう者があんなに表情豊かに……。

 彼はなにを考えているのかしら?
 馬鹿なの? 馬鹿なの? 馬鹿なのよね?
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