婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

「落ち着け、オディール」

 アンドレイ様が軽く顎を動かして合図を送る。わたしは彼の言わんとすることをすぐに理解して、淑やかにソファーに掛けた。

「そういうところだ」

「申し訳ありません……」

 わたしは深く頭を下げた。恥ずかしくて顔が上気する。
 またやってしまった。またアンドレイ様を呆れさせてしまったわ……。

 令嬢として正しくない行いをしてしまうと、いつもアンドレイ様が注意をしてくださる。彼は常にわたしのために、王子の婚約者としての正しい方向に導いてくださる素晴らしい方なのだ。

「いいか、お前の評判はすこぶる悪い。最悪だ。国の上層部からも俺とオディール・ジャニーヌ侯爵令嬢との婚約は取り止めにすべきなのではと意見が出ている」

「そんな……」

 悲しい言葉に涙が出そうになった。自然と身体が震え出して止まらない。指先から血が引くように、どんどん全身が冷たくなっていった。

 アンドレイ様に相応しい婚約者になるために、あんなに頑張ってきたのに……。
 わたしの努力は一体なんだったの……?
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