婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

「……………………」

 背筋が凍った。
 殺すって……死んでしまうって……。
 わ、わたしは、と、とんでもないことをしようとしているのかしら…………。

 スカイヨン伯爵はそんなわたしの様子を見て呆れたようにため息をついて、

「まさか、本国ではなにも説明を受けていないのですか?」

 わたしは震える身体でコクコクと頷く。
 アンドレイ様からはただ「情報を引き出すために王太子を籠絡せよ」とだけしか言われていなくて……ま、まさか諜報活動がこんな死と隣合わせのお仕事だなんて…………。

「分かりました。では、私と基礎から学びましょう。道具の使い方はもちろん、交渉術などもですね。まぁ、あなたは高位貴族ですので、自身が有利になるような話術については既にご存知だとは思いますが」

「い、いえ! 初歩から教えてください! 宜しくお願いします……スカイヨン先生っ!」


 こうして、右も左も分からない素人のわたしの間諜としての教育が始まったのだった。

 これは……絶対に失敗できないわ。
 だって、わたしには人を殺したりなんて絶対に出来ない。
 これらの道具を決して使うことのないように、慎重に、確実に事を進めなくては……!

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