婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜


 貸金庫のある銀行に着くとわたしは堂々と名前を名乗って支配人を呼び出す。
 突然の侯爵令嬢の来訪に驚きを隠せない彼に「フロールの代理で来たわ」と言うと、すぐに理解したようで奥に通してくれた。

 これも優美な死骸の調査通り。どうやらこちらの銀行も黒い商売に関わっていて、王子の事業内容も熟知しているようだ。つまり、彼の犯罪に加担してる悪い奴みたいね。

 王子専用の貸金庫は他とは異なり特別室にあるらしく、わたしは二階の最奥の部屋に通された。
「こちらでの事は私どもはなにも見ておりませんので」と、支配人は一礼をして静かに踵を返す。

 わたしは高鳴る胸を押さえながら、そっと重い扉を開けた。
 他人の秘密――ましてや婚約者の秘め事を暴くなんて、少しだけ良心が痛んだのはたしかだ。
 でも、これまで彼から欺かれていたことを思うと、これくらいの意趣返しは当然の権利なはずよ……と、自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせる。
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