二人でお酒を飲みたいね。

第4章

 プロジェクトチームは暗礁に乗り上げながらもなんとか動き始めた。 社長の沼井もその結果には気が気ではないらしいが、、、。
「まずは会社全体の空気を変えることから始めないといけませんねえ。」 初枝も河井も今日ばかりはふざけてなんかいられない。
「空気を変えると言っても難しいんじゃないのか?」 「そう思うから何も出来ないのよ。 栄田さん。」
「それはそうかもしれんが、、、。」 「まずさあ、部門を見直すことから始めませんか?」
「部門を見直す?」 「そう。 営業部を廃止するんです。」
「おいおい、いきなりかよ。」 「だって、訪問販売では売り上げがほとんど上がってないんですよ。」
「それはそうだけど、、、。」 「代わりに車庫のスペースを利用してショールームを開設するんです こっちなら他の部門の人たちも立ち寄れるし応援も出来るわよ。」
「車庫か、、、。。 確かにトラックは要らないなあ。」 「でしょう? そこをリニューアルしてショールームに変えるんです。」
長年、販売用のトラックが20代ほど留められていて毎日3台ほどが営業に出ているのだが、、、こう営業不振では維持費が掛かり過ぎている。
「トラックを売却してショールームの開設費に充てるんです。 それくらいは出るでしょう?」 「だども、その後はどうするんだ?」
「ショールームと言っても陳列スペースが出来れば十分よ。 社員の休憩はこっちで出来るし、照明さえ付けてもらえば問題は無いはず。」 「そうか。 それなら試作品を置くことも出来るな。」
「高木さんはどう思う?」 「俺は尚子ちゃんの意見に賛成だよ。」
「じゃあ、この一件はこれでオッケーね?」 初枝がメモをまとめている。
 取り敢えず一日目の会議は終わりそうだ。 しかし会社の創業はまだまだらしい。
マスコミもまだまだ騒いでいて、裁判が終わるまでは動くに動けないでいる。 辞職者も増えてきた。
「会社の規模も小さくしないとね、、、。 これじゃあやっていけないわ。」 初枝の友人、高浜恵子もうんざりした顔である。
栄田も恵子のうんざりした顔を見るのが嫌でカスタマーセンターに飛び込んできた。 「ここは何も無いなあ。」
「おいおい、何も無いことは無いぞ。」 「ああ、高木さんが居るから使用済み核燃料の倉庫みたいだな。」
「何だ、そりゃ?」 「使用済み核燃料とはいっても処理次第ではまだまだ使えるからね。」
「俺はプルトニウムか?」 「そうだよ。 まだまだこれからなんだからね、高木君。」
 部屋の前は駐車場だ。 取り敢えず使用制限は解除されているが、使いたいと思う社員はさすがに居なくなった。
だってさあ、入るたびに飛び降りたあいつのことを思い出すんだよ。 幽霊を見たって人まで現れたんじゃ使えないよなあ。
そこで会社としては駅前の立体駐車場を借り切ったんだ。 会社に来るまでに20分は歩かないといけないから大変だけどね。
取締役たちは相変わらずの能天気でなんとかなるさって思っているらしい。 俺たちの苦労を見せてやりたいよ。

 「第二回の焦点は部門の再編です。」 「多過ぎるんだよなあ。」
「何処から手を付ける?」 「そりゃあ、管理部からだろう。」
「そうよねえ。 あそこが一番の問題なんだからね。」 「取締役もしばらくは要らないんじゃないのか?」
「まあまあ、それはおいおい話すことにするわよ。」

 管理部、ここは昔から会社の元締め的な部署だった。 営業も開発も人事も管理部がイエスと言わなければ事が進まない。
「これじゃあ、脳梗塞になっちまうぞ。」 以前からそのようには言われていた。
そしてついに脳梗塞のような状態になってしまったのだ。 「手遅れね。」
初枝は管理部に回されてからそう思った。
 「さてと、まずは管理部の特権的な発言力を無くすことから始めようか。」 「え? 何それ?」
「昔からの慣習なんだ。 管理部がイエスと言わなければ何も進まない。」 「それはおかしいなあ。」
「初代の社長からそうだった。 管理部長には絶大の信頼をしていたからね。 でもそれが痣になってしまったんだ。」 「確かに、、、。」
尚子は逮捕された管理部長の顔を思い出した。 確かに居てほしくない顔である。
「でもさあ、何で管理部があそこまで力を持っちゃったの?」 「それはね、一年で部署替えをすることを管理部が決めちまったからさ。」
「いつ頃だったの?」 「そうねえ、あれは先代が亡くなる前だったかな。 その時の管理部会議で部長の一任って形で決めたのよ。」
「最初は各部署に新鮮な空気をって話だった。 でもそれが固定化してしまって嫌なら飛ばすぞってことになっちまったんだ。」 「ひでえ話だよなあ。」
「だからあいつも、、、。」 河井は思わずテーブルを叩いた。
 「そこからやんないと何も変わらないわね。」 初枝も唇を噛み締めて窓の外を見詰めた。
「やつも可哀そうだけど、実はもう一人自殺した人間が居るんだよ。」 「え? 誰?」
俺の話に初枝と尚子が振り向いた。
「先代の奥さんだよ。」 「何で?」
「先代が亡くなった後、副管理部長だった高梨陽介が言い寄ったんだ。 俺が面倒を見るから副社長にしろってね。」 「それでどうしたの?」
「それに気付いて高梨を説得したのが沼井だよ。 でもやつは聞かなかった。 奥さんの写真をばら撒いて辞職したんだよ。」 「うわ、、、なんてことを、、、、。」
「それをマスコミが嗅ぎ付けたもんだから管理部は大騒ぎになった。 でもな、高梨には何もせずに奥さんを創業家から遠ざけちまった。」 「それじゃあ自殺したくもなるわよ。」
「管理部に物を申す人間も居なかったんだ。」 「自分が飛ばされるからな。」
「それで奥さんは遺書を残して橋から飛び降りた。 川の水が減っていたから無惨だったよ。」 「可哀そうに、、、。」
「その遺書は何処に在るんだ?」 「当時の副社長から俺が預かったよ。 家に在る。」
俺は話を切って水を飲んだ。 冷や汗が出てきている。
そりゃあ、今まで極秘にしてきたんだ。 これを知られたら取締役の連中は居場所が無くなるだろう。
だって、やつらが何をしてきたのか克明に描いてあるから。 賄賂だけじゃない。
社内不倫だって当たり前に蔓延ってたし、レイプだって日常茶飯事だった。
被害者には金を渡して黙らせた上でお見合いをさせて隠蔽してしまった。
時効だとはいえ、あからさまにされてしまえばこの会社だって吹き飛びかねない大事件だ。
被害者のほとんどは秘書室の女の子だった。 社長の名前を使えば呼び出すのは簡単だったからね。
「だから秘書室は人気が無かったのね?」 初枝がポツリと言った。
「それにしてもさあ、あいつら好き放題にやらかしてたんだなあ。 まいっちまうぜ。」 栄田もうんざりした様子である。
会議は昼休みを挟んでなおも続いている。 一方、社長室では?
今日もしんと静まり返って沼井の姿も無い。 これから始まる裁判が気になるらしい。
そんなことより会社はどうするんだね? 社員の半数が辞職してしまった。
秋にはさらに辞職者が増えるかもしれない。 裁判が始まれば会社の過去も暴露される危険が有るからだ。
俺は迷った。
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