二人でお酒を飲みたいね。
 「やる? やるって何を?」 「男と女がやるって言ったら、、、ねえ。」
「高木君と山本さんが何やるの?」 初枝のお惚けに栄田が食い付いてきた。
「あれよ。 あ、れ。」 「んもう、、、やめてよ みんな。」
「ワーーー、山本さんが真っ赤になってる。」 「そりゃなるわよ バカ。」
いったい、この中年グループは仲がいいのか悪いのか、、、?
 捲し立てたり突っぱねたりしながら午前3時くらいまで賑やかに飲み明かしておりました。 酔い潰れてしまった人たちは揃いも揃って俺の部屋に転がり込んで雑魚寝しております。
狭い部屋なので、窮屈そうですが、それでも酔っ払っているからか諦めて寝てしまったようです。 鼾が聞こえます。
あらあら、柳田さんも豪快な鼾を、、、。 まあ、しょうがないか。
ってなわけで俺たちは寝室の布団の中で互いを気にしながらくっ付いたり離れたりしてます。 どっちかにしてほしいが、、、。
 翌日はみんな揃って三日酔い。 朝は誰も起きれません。
昼になってようやく河井が目を覚ましたのですが、、、。 「頭 痛すぎて動けねえや。 飲み過ぎたなあ。」
「完全に悪酔いだよ。 夜までおとなしくしとこうぜ。」 初枝だってモゴモゴ動き回ってます。
みんな吐かなかったからそれが幸いかな、、、。 昔はあっちこっちで吐いたもんだが、、、。
 「高木君は、、、。」 「まだ寝てるわよ。」
「夕べはやったの?」 「それどころじゃなかったわよ。」
「残念だなあ。 やってる所を見たかった。」 「何ヨ 変態。」
「昔から変わらないなあ、お前の変態ぶりは。」 「変わってたまるかってんだ。」
「なあに? うるさいなあ、、、。」 「お局様が起きられたぞ。」
「誰がお局様よ?」 「あなたですよ あ、な、た。」
「もう、、、。」 この3人 やっぱり悪友なんです。
昔からくっ付いていてね、悪さもしてたっけ。
俺と尚子が起き出したのは昼を過ぎてからだった。 栄田たちはコーヒーを飲んでいたっけ。
「なあなあ、プロジェクトチームなんだが、、、。」 「今日はそれどころじゃないわよ。 みんな潰れちゃって頭回らないんだから。」
「それもそうだ。 あはは。」 「あはは、、、じゃないわよ。 河井さん 私のお尻 ずーーっと触ってたんだからね。」
「おいおい、河井君 女王様を怒らせるなよ。」 「誰が女王様よ?」
「栄田、お前のほうが怒らせてるじゃねえか。 まったく、、、。」 「どっちもどっちだねえ。」
「高木君 そりゃ無いよ。」 河井が泣きべそをかく真似をしたので栄田はクスクス笑い出した。
「しょうもないおじさんたちねえ。 いいわ。 特別に可愛がってあげる。」 初枝は河井に向かって、おいでおいでをする。
ほんとにまあ、この人たちは何なんだろう? 俺はまるで子供を見守る親になった気分だ。
 外ではたまに珍しいチリ紙交換の車が走ってきた。 (あいつら、まだ居たんだ。)
ここしばらく聞かないなと思っていたら続けてるやつは続けていたらしい。 昔ほどじゃないけどね。
チリ紙と竿竹と焼き芋は町の風物詩だったなあ。 チャルメラまで加わって賑やかだった。
今も焼き芋とチャルメラは見掛けるけれど、、、。

 夕方になった。 指物連中もさすがに酔いが覚めてきたのか家へ帰っていった。
「ああ、また今夜も二人だけになっちゃったわねえ。」 「家のほうは大丈夫なのか?」
「私より高木さんのほうが心配よ。」 「俺はいいよ。 のんびりしてるから。」
「それがダメなのよねえ。 のんびりしてると頭までのんびりしちゃうわよ。 これから大変なんだから。」 「脅す気か?」
「私が可愛がってあげるわ。 柳田さんほどおっぱいは大きくないけど。」 「まあまあ、、、。」
「ご不満ですか?」 「そうじゃなくて、、、。」
尚子は台所に目をやった。 「洗い物しなきゃねえ。」
袖捲くりをした彼女はシンクに置いてある食器を洗い始めた。 その後姿を見ていると健気にも思えてくる。
「今日は何を作ろうかなあ? さっぱりしたいわね。」 鼻歌を歌いながら冷蔵庫を開ける。
「野菜も使っちゃったなあ。 買ってこなきゃ、、、。」 洗い物を済ませると尚子は財布を持って買い物に出て行った。
 康子はというと、田村の事件以来、時々は電話してくるようになった。 俺が刺されてからは会いに来るようにもなった。
「あなたを見てるとさ、何で別れちゃったんだろう?って今でも不思議なのよ。」 「そう?」
「だって大して仲も悪くなかったし、やることもやってたし、浮気してたわけでもないしさあ、、、。」 「んんんん、、、。」
「でしょう? 子供が出来なかっただけなのよね。 それだけで別れちゃったのよ。」 「そうだよな。」
俺はなんとなく男としての責任を感じていた。 身籠らせてやれなかったんだから。
女にとってそれは致命的じゃないか、、、。 そうも思うのだが、、、。
「でもさ、子供が居なくても仲良くやってる夫婦ってたっくさん居るのよね。 何で別れちゃったの?」 「それは俺に聞かれても、、、。」
「そうよねえ。 あなたは不器用だし、私の言うことしか聞かなかったもんねえ。」 「ぐ、、、。」
「私の部屋もそのままに残してくれてるんだもんねえ。 帰ってこようかな。」 「それは、、、。」
「あらあら、いい人でも居るの?」 「微妙だけど、、、。」
「じゃあさあ、その人が出て行ったら連絡ちょうだいね。」 「う、うん。」
なんて変な約束をしてしまうんだろう? やはり康子を忘れられないでいるのか?
 ボーっとしていたら尚子が帰ってきた。 「只今ですーーー。 たくさん買ってきちゃった。」
大きな買い物袋をぶら下げて嬉しいような疲れたような顔で居間に入ってきた。 「お帰り。」
「さあて、今夜はさっぱりした酢の物と焼き魚ですからね。 お父さん。」 「またまた、、、。」
「いいじゃない。 私がここに居る間はお父さんなのよ。 ねえ、高木さん。」 人懐っこい顔で甘えてくる。
こうされると逃げられないんだよなあ。
 尚子は料理を作り始めた。 キュウリの酢の物を作っているらしい。
「酢の物なんて珍しいなあ。」 「そう? 高木さん一人だったらまず食べないでしょうねえ?」
「無いな。 作るの面倒くさいし、、、。」 「おじさん語録だ。 一人暮らしだと何でも面倒くさくなるのよ。」
「そう?」 「洗濯しないで同じ下着を着てたり、同じワイシャツを何か月も着てたりするから。」
「何か月も、、、はさすがに無いなあ。」 「でも洗濯はあんまりしないでしょう?」
そう言いながら尚子が不意に振り向いた。 そして小皿に入れた酢の物を俺の口に放り込む。
「お味はどうですか? ご主人様。」 「おいおい、、、。」
喋ろうとするんだけど酢の物が入っていて喋れない。 「暫く食べてて。」
(それは黙ってろってことか?) 俺は怒る気になれなくて苦笑した。
 それでも目は尚子を追い掛けている。 スカートをヒラヒラさせながら料理を作っている。
今夜も尚子にやられそうだな、、、。
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