麻衣ロード、そのイカレた軌跡⓽最終話/魂の交尾
迷宮へ…/その17
剣崎


「いやあ…、相馬さんの顔はえらいしばらくぶりで拝見したが、何ともお元気そうで安心した。さすが、極道界の狂獣と恐れられた男だ。あんたにかかっては、病も恐れおののいて逃げかえってしまうようですな。ワハハハ…」

「巷じゃ、棺桶に片足突っ込んどるともっぱらだった様ですからな。なーんだ、意外に元気そうじゃないか、まだくたばりそうもねーかってガッカリされたことでしょう」

「はは、いやいや‥」

今夜の会合は、田代組と相和会で数年前に交わされたある協定事項の延長を確認することにあった

都内某所の割かし落ち着いた料亭で、俺を含め双方5人は早々と議案合意に達し、その後は雑談となっていた訳だが…

その”話題”は我々の予想通り、然るべき方向へ進んだ

相和会会長の体調は実際、どうなのか…

ズバリ、田代組の焦点はこの一点だっただろうよ

このことは、関東本家にも重大な関心事であるのは言を待たないしな

傘下有力組織のトップが間近かで”本人”と接するこの機会に、関東としてもここでしっかりそれの”把握”をしておきたい…

うちの会長も俺も、この点で切り込まれた際のとるべき対応の用意はできていた


...


「…いや、なにしろ先般は跡継ぎに指名されていたご子息が亡くなられましたんでな…。さすがの相馬さんもお気を落とされて、持病の方が按配悪くなりはせんかと…、関東の中でも盛んに心配する向きはありましてな…」

「田代さんよう、わしでもバカ息子が死んじまってドンと落ち込みましたよ、そりゃあ。だが、ヤツと入れ替わりで”血縁”が一人増えましてね。思いもよらぬことで、奇妙なタイミングだったが…。息子がいなくなった代わりに遠縁の娘がぴょんと現れたってことです。そんで、気が癒されたってことはありましたわ」

「おお…、それは業界でも明るいニュースとして話題になっとりましたわ。相馬さんは誠に恵まれておると…。息子さんをああいった形で失くした矢先に、何とかわいい女子高生ってことらしいですな…。何でも獣のような鋭い両の眼は、若き日の相馬豹一と瓜二つだとか…」

田代さんとしては、あえて”若き日”という添え物を加えたんだろう

「…とにかくそのせいか、お体の方はこっちの”杞憂”だった…。皆には私からそう伝えますんで、ご安心を…」

相馬会長の隣に座っていた俺は、この田代組長の言葉を受けた瞬間、会長から電気のようなものが伝わった

きたな…(苦笑)

長年この人の近くに身を置いた組の人間には、会長のスイッチオンがわかるってものだ

...


「そりゃ、すまんことですわ。戦後からずっと、大手の皆さんをお騒がせし続けてきた業界の問題児の顔ツヤ、そちらの目ぇに映った”診断結果”でしっかり伝播してくださる訳ですな。こりゃまた、巷でこちらの耳にも飛びこんでくる。おい、剣崎、飲み屋の女からもよう、またからかわれるぞ。死にぞこないはまだまだ当分悪あがきするらしいから、在○親分が乗り込んできてショバ代ハネられるのはまた先に伸びそうでよかたわとかってな」

これにはさすがに苦笑いしながらも、田代さん、顔が引きつっていたぜ(笑)

お付き二人も気が気じゃないって顔で、自分の親分の様子を覗ってたしな




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