彼に潜む影
「いい表情だな」
男が濡れた唇を指で拭いながら、すっと目を細める。その顔は、愛佳がこれまで見てきた基治のどんな表情よりも妖しく艶めいていて。愛佳を胸をゾクリとざわめかせた。
「お前は今、誰のキスに感じてた? 基治に? それとも基治の中の鷹治に?」
「違……」
目の前の男に何もかもを暴かれてしまいそうで、愛佳の気持ちが動揺する。
「私は、あなたなんて……」
「何? いつもみたいに、もっとはっきり言えよ」
意地悪く笑う男を拒絶したいのに、愛佳の身体にうまく力が入らない。
せめてもの抵抗とばかりに男を睨め付けると、愛佳の耳のそばでデスクに置かれていたスマホが鳴った。それを見てニヤリと笑った男が、愛佳を押さえ付けていた手を片方外してスマホを持ち上げる。