彼に潜む影

「残念だな。このまま兄貴が目覚めなければ、水城は俺のものだったのに」

鷹治が、愛佳の頬を指先でつつーっと撫でる。自分の容姿で愛佳に触れる鷹治に、基治の胸の中に怒りが湧いた。

「愛佳に触るな」

「何言ってんだよ、兄貴。周囲から見れば、こいつの恋人は兄貴の姿をした俺のほうだよ?」

基治が悔しげに唇を噛むと、鷹治が本来の基治に似つかわしくないほどの嘲笑を浮かべた。

「なぁ、兄貴。今ここで、こいつに選ばせよう」

「何を?」

怪訝に眉を寄せる基治を見て、鷹治が口角を最大限にまで引き上げる。

「そりゃ、もちろん、二週間後に入籍する相手をだよ」

鷹治がクッと笑って、愛佳に向き直る。

「さて、どうする? お前が好きなほうを選べよ。恋人の見た目をした、嫌いな男か。嫌いな男の見た目をした恋人か」

「な、にを……」

青ざめた愛佳が唇を戦慄かせる。そんな彼女に、鷹治が妖しく微笑んだ。彼女の愛する、恋人の姿で。


Fin.
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