再会したクールな警察官僚に燃え滾る独占欲で溺愛保護されています
「……すみません。ありがとうございます」
人見知りなのだろうか。男性が目を合わせてくれない。
「あらら、お水がこぼれちゃったのね」
そこへ布巾を持った奥さんが来て、テーブルにこぼれた水を拭きながら男性に声をかけた。
「お兄さんスーツ大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「すぐに新しいお水持ってくるからね」
奥さんが厨房に戻っていく。
ふと店内の時計が目に入り、私はぎょっと目を見開いた。
「いけない、もうこんな時間」
会議開始の時間が迫っている。間に合うだろうけど急いだ方がよかそうだ。男性は私の貸したハンカチでスラックスを拭いていた。
「それ差し上げるので、私は失礼します」
「いえ、でも……」
男性がはっと顔を上げた。
ようやく目が合ったが今度は私がくるんと背中を向ける。そのまま店を飛び出した。
あのハンカチお気に入りだったのにな。
会社に戻る道を進みながハンカチを渡したままお店を出てきてしまったことにちょっとだけ後悔した。
でも自分から渡しておいて、まだ拭いている途中なのに取り上げるのも失礼だ。
仕方ない。ハンカチは諦めよう。
うんと頷いて自分を納得させてから会社に向かうため歩くペースを速めた。